顕現する女神
大多数の日本人にとっては、神様なんて、各種イベントごとの主催者程度の存在でしかないに違いない。正月には神社を詣で、葬儀では仏を、ハロウィンには、どんちゃん騒ぎをして、クリスマスには性夜! ……その程度の価値しかないのが一般的な認識だろう。
熱心に拝んだところで――それがどうなるんだ?。
イワシの頭にも信心。偏向バイアス以外のナニモノでも無いじゃないか。
それが嘘偽りの無い、俺の宗教に対するスタンスだ。
「……しっかし、長ぇな? オイ」祈るメルトゥイユを待つことに、痺れを切らした様子でウルリーカは、苛立った声を上げる「世話になった、このねーちゃんには、わりぃけど……面倒臭ぇし。もう、ふん縛っちまおうぜ?」
どうするかは「お任せする」といった感じで、こちらに視線を向けるクィンヒルデと、スキュデリ。メルトゥイユを睨みつけ、イライラしつつ組んだ腕を、人差し指でタップし続けるネル(……俺に振られましてもねぇ)。
――彼女の祈りを待つこと、たっぷり数分。この状況で数分も祈り続けた、彼女の信仰心を褒め称えるべきか、空気の読めなさを呆れるべきか、腰の重い神を蔑するべきか……。判断が別れる所ではあったが
彼女の必死の祈りを聞き届けた、女神は――確かに熱心な信徒の祈りの声によって、姿を顕して見せた。
* * *
「……マジか」
こちらの世界にやってきて以来、周りの奴らのデタラメっぷりに振り回され続け――もはや大抵のことでは驚かないつもりの俺だったが
そんな言葉が、気づかない内に口をつく。
膝を折って祈るメルトゥイユに向き合うように顕現した――光り輝く、神々しさを以て辺りを照らす、女神然とした存在が、信徒を見守る慈母の顔で、そこには現れていた。
「女神アレクサンドラ様!」今や滝のような汗を流し、胸を押さえて、修道女は苦し気に喘ぐ「私たちの……信仰の……敵! 邪悪な竜をお倒し下さい!!」




