始まる前に終わってた
訳が分からないといった、表情を見せていたメルトゥイユだったが、……なにやら思い至ったらしい(……まぁ。とは言ってもね)
ネルにしろ、デシレアにせよ……。彼女らのイデアは寸分違わず、人間の身体と見分けはつかない。不要なカミングアウトでも無い限り、無駄な争いも起こらな――
「……頭の悪い女神の取り巻きにしては、良く解ったじゃない」(……すまん。ウルリーカ。アホの子は、コイツだったわ)
「や?! やはり!!」自分の考えが、確信に変わったらしい。メルトゥイユは、俺に『契約した者』としての、義務を果たせと要求して来る「ツモイさん! 竜を倒して下さい! ツモイ……さ……ん?」どうしたものかといった、表情を浮かべる俺を見て――トーン・ダウンする彼女。
「おねーちゃんのつがいの……おにーちゃんが、する訳無いじゃない……」
「なっ!?」驚きに目を見開き、こちらを見る修道女。
突然、震えた声を上げ「……こ、これはアレですか? 本当の敵は、すぐ側に居た……と言う……類のお話ですか……?」
……なんかね? もうね? 勝負が始まる前に終わっている状況って、どうなんだろう? どう言う気分なんだろう?
さて、この状況……着地点はどこにしようか。彼女の現状については知っている。彼女が属する宗派が引き受けることになった、鳴り物入りで始まったギルドの運営。
それが思わしくないことから、無理をしてでも功績が欲しくて、こんな何百年も前に流れたか解らない、頌の部族が崇める御神体の、白龍の伝説なんてものを、探りにでも来たのだろう。
龍は神の敵だと彼女は言った。仮にネルを……龍を倒してのけることができたなら――彼女が運営を代行しているギルドにとっては、起死回生の一発逆転の本塁打となるのかも知れない……。
 




