決まり手は、突き放し
ネルは、全身を忿怒に慄えさせていた。目には涙まで浮かべ、悔し気に歯を軋らせる その姿を見て――良心が……呵責に苛まれる。
「さっ? デシレア? お部屋に帰ろ? 本を読んでやるぞ♪ オズの魔法使いが良かったか? あぁ、有栖川さん? 塩を撒いておいて下さいね?」
ネルに背を向け、デシレアの背を押し、ロビーを後にしようと歩を進める。
姉妹同士の喧嘩に、俺を巻き込んでしまった申し訳無さ一杯の表情で、落ち着きをなくして、どうしたものかとオロオロして辺りを見回すデシレア。
――ネルは、ひとり残され膝から崩れ落ち、床に手を突いて、悔しさからか……身を震わせていた。
「分かったわよおぉぉおおぉぉおっ!! ばかぁーっ!!」
ネルの叫び――ここに、世界そのものにも等しい、龍の姉妹同士の喧嘩が……。
しょーもない形で、幕を閉じた。
* * *
その後「では、仲直りの印と言うことで、本日は皆さまで、御夕食と言うのはいかがでございましょう?」と言うような如才のない有栖川さんの提案も有りはしたが――バツが悪い様子のネルが、この申し出を断固拒否。
「お邪魔様!!」
涙を拭うと一言、言い放って俺の襟首を引っ掴み、デシレアの住まいを逃げるように後にした。
そして、『門』を潜り(……この場合、この表現で合っているのかは分からないが)。何故か、現世日本に帰り?
「おい? ネル? ……なんでこっちに?」辺りの様子が、森の中の我が家でないことに気づいて襟を直して。
「うっさいわよ!」周囲に響く、怒りの声。
「腹立つ! アンタぁ!?」いつもの美貌を鬼気迫る形相に変えて、俺に向き直るつがい様「憂さ晴らしよ! 憂さ晴らしにぺったらぱったら♡ するわよ!!」
とてもではないが……。御近所さまに、お聞き頂くに憚られる言葉を、大声でネルは喚き散らす。




