絶滅
「ほら? エメラルド。アタシを閉じ込めるんでしょ? 何十億年だったっけ? この超美しい御姉様が、世に二つと無いオブジェと化してあげるから、さっさとおやりなさいな。ポーズは、こうかしらね? ……それとも、こう?」自身が映えるポーズを考えている様子で――ネルは、あれこれポーズを取り始める。
「…………」
――長考。
デシレアは、もはや理解不能を突き抜けて、目の前の姉を自殺志願者か、狂人でも見るような目で、じっと睨めつけ、微動だにしていなかった。
「どうしたのよ? アタシをエメラルドに閉じ込めるんじゃなかったのぉ? アタシは全っ然構わないって言ってるのに」(煽るなぁ……)
「だから、おねーちゃん! なに考えてるのって聞いてるの!」
「別になにもーっ」
ひたすらに聞く者を苛立たせる間延びした口調。
「……ただぁ~」
ポージングで乱れた髪を直すと、ネルは妹からの問いに――明らかに面倒くさそうに返答。
「その瞬間、あんたの存在する世界の――アタシの影響が及ぶ、全てのものから、甘い物を消し去ってあげるって……だけのお話よ?」
「なっ?!」稲妻に撃たれたかのように固まるデシレア。
「我慢できるかしらねぇ~? 甘い物を取り上げられて、あんたが永遠の生を過ごすなんて」
「ふ、ふん! そ、そ、そんなものが、なんだって言うのよ!」
それが強がりなのは、傍目から見ても分かる。ネルの言葉を借りるなら、龍が執着を示す対象。デシレアにとっては、それが甘い物なのだろう。
「べ、別にケーキとか食べなくても……ぜ、全然平気だもん! 乙女だもん! ダイエットには、丁度良いもん! 果物か、なにかで我慢するもん!」
デシレアが、おしゃまな物言いの強がりを口にすると、ネルはその強がりを踏みつけるかのような、反論を許さない強い口調で――
「アタシは『全て』って、言ったわよ? あんたの周囲に存在する全てから――生命を司るアタシが……ショ糖も、果糖も、ブドウ糖も、天然由来の甘みを感じる物質を宿す全ての種を、……絶滅させてやるって、言ってんのよ」




