これを残したままでは、死ねない
「……後は、宜しくお願い致しますね?」
そして大声で泣きじゃくり始めた義妹を、必死にあやし続けること2時間。
ようやく、この子が泣き止み始めた頃に、甘い香りを漂わせて、ザッハトルテを届けに執事さんは、戻って来てくれた(……つ、疲れた)。
「お嬢様のおもり、お疲れさまでした」出て行く時と同じく、耳打ちで労ってくれる執事さん。お茶の支度を素早く整え、主を席に着かせると、テーブルを囲んでの遅いお茶。
泣き腫らした大きな目に――涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を、甲斐甲斐しく世話する執事さん。されるがままに、切り分けられたケーキを大きくお口を開いて――もっ! もっ! っと、言った様子で頬張るデシレア。
お茶が終わると執事さんは「夕食は少し遅く、致しましょうか」涼し気な笑顔で、そう言い残して立ち去って、デシレアも「ケーキ食べたから……お部屋でお休みする」とぼとぼと退室。
広すぎて落ち着かない部屋に、人生で初めて目にした銃――《ル・ズィズィ・ドゥ・モン・フランジャン》と名付けられた2丁の回転弾倉の拳銃と、それと《Il est mignon.》 /「彼、かわいいわね♪」。
同じく、おちんちんメタファーな名称が刻まれた、上下2連の小型拳銃2丁と共に、部屋に置き去りにされた俺の口からは――水木しげるが描く魂の様な、大きな溜息が漏れ出して。
「……百万年以上も残るとか」
俺〝自身〟が存在していたことを示し続ける、考えものな、これら。うかつに死ぬに……死ねないってことじゃないか……。おまけに――」
回転弾倉の拳銃に、それぞれに刻まれた文字。
《Blanc pur innocent》/「無垢な純白」
《Noir Obsessionnel》 /「淫猥な漆黒」
その刻印に頭が痛くなった。
「……一体、俺は。どれだけ、おちんちん自慢な奴なんだよ……」




