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差押えられた俺

(……そう……そうだよ。合コンなんかでも、キャーキャー言われて、女子に群がられるのは、得てして……こういう人)


 かつてを思い返し。根の暗い、怨念めいたものを――密かに胸に灯す、悲しい生き物な俺。


「……百千万億様のことが……わたくしは、羨ましゅう御座います」執事さんの口から、想像もしない言葉。


「えっ?」


 一瞬、何を言われたのか、分からなかった俺は、執事さんの方に振り返り、そして「ホラっ♪」背中を力強く叩かれてむせる。


「お嬢様が、お待ちかねかと思われます。早く百千万億様を御案内せねば、わたくしが叱られてしまいます。さっ参りましょう」


 先ほどまで見せた美貌を崩して、人懐っこい笑顔を浮かべると――執事さんは、俺をデシレアの元に案内してくれた。




 * * *




「おにーちゃんズ、ルーム♪」


 俺を出迎えてくれたデシレアは、元気一杯に両手を広げて「抱っこ」とでも言いたげな感じで、ぴょんぴょんと、落ち着きなく、飛び跳ね出迎えてくれた。


「俺の部屋?」見回すと、軽く数百平米はある、ハリウッド映画なんかのワン・シーンに登場しそうな――高級ホテルのスィートも、かくやといった豪華な部屋。


「そだよ♪ おにーちゃん専用のお部屋♫ とりあえず、おにーちゃんと、おねーちゃんの巣にあった……おにーちゃんの匂いがする物は、差し押さえて全部持って来ておいたから」


(……容赦ないな、この子)


 見れば、この部屋には似つかわしくない、雑多な俺の私物が部屋の一角に、「差し押さえ」と書かれた赤い札が、べたべたと貼り付けられ山と並べられていた。


 デシレアは俺の私物に駆け寄ると、愉し気に品定めするように眺めて回り、ツォンカパが俺にくれた長剣を目を止めると、手に取って、そして小さな身体を感じさせない力で一息に鞘を払い、その剣身を食い入るように鑑賞し始めた。

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