まぶたに感じる小さな唇
デシレアが、何かをしたのは間違いない。
先ほどまでは、質素な上に騒々しい(なんか、もうすっごい底辺のかほり!)、我が家のテーブルに着いていたハズであるのに今、俺は、目も眩まんばかりの光に溢れる大きな空間に立っていたのだから(ひ、光の国か! ここは?!)
……思うほどに詳しくもない、某正義の味方の故郷のようだと、目を焼くような光の中で。
「あ! そっか。おにーちゃん? ちょっと、しゃがんでみて?」
なにごとか、指示されるままに――その場にしゃがみ込むと、固く閉ざした両の瞼に触れる、柔らかなデシレアの唇の感触と吐息。
(これが、いきなり現れた見ず知らずの汚いおっさんの唇の感触だと言うのなら……俺は世を儚み、死を選ぶ)
「もう、目を開けても大丈夫だよ♪ おにーちゃん♫」デシレアの可愛らしい声。
……確かに。先ほどまでの瞼を閉じても、なお目を突き刺していた眩しさは、今は、もう感じない。
恐る恐る目を開くと――プラチナを思わせる質感の貴金属で天井も、床も、柱も造られた、大きな城か、何かのロビーのような場所に自分が居ることに その時、初めて理解した。
「ここは?」辺りを見回し彼女に訊ねる。
「ベタな御質問有難うございまーっす♡」クルリと一回転して見せて、お礼を口にする義妹。
膝上丈の緑のスカートが、動きに合わせてふわりと舞い上がる。
「ここはねぇ? わたしの巣♪」そして満面の笑顔。
「凄い所に住んでるんだな?」
完全に、おのぼりさんか何かの様ではあったが、そのことに――まるで恥ずかしいものは感じることはなかった。それほどに圧倒される光景が目の前に拡がっていた。
「うん♪ わたしね? おにーちゃんの世界のお話の、オズの魔法使いが大好きなんだけどね? あれにエメラルドの都って出てくるでしょ? 目を傷めるからって、色ガラスの眼鏡を掛けさせるインチキのあれね? がっかりだったの」
(……正直、細かいあらすじまでは、思い出せないけど)




