小市民な俺は、トラブルを避ける。つまりは地味展開
大金が懐に入ることが分かった途端に俺たち2人は俄然、忙しくなった。
教会に急いで戻り、メルトゥイユに家具や寝具を扱う店と、それを運ぶ馬車などの手配方法などを、矢継ぎ早に。
「えぇっと……多分、職人通りに向かうと、全部……どうにか……なるんじゃ……ないでしょうか?」
話しを聞くや、俺たちは飛び出すように教会を後にする。
街の人に訊ねながら、職人通りへと向かう。どうやら教会の立つ区画と、街の中央を挟んで正反対に、その通りは在るとのこと。
今や、我が家の皆から集めた金に加えて――盗賊たちを衛兵に突き出した報奨金、換金したそいつらの身ぐるみ、巻き上げた所持金(どっちが盗賊か分かりゃしないが……こっちも切羽詰まっている。仕方ない、仕方ない)、昼過ぎにはワーグの毛皮を売った、纏まった金も入って来る。
いわゆる御大尽と言う奴にクラスチェンジできた訳だ。
御大尽……と言うと、カモられたり、たかられるイメージが浮かんでしまうが……。こつこつ、こつこつ蓄財するのは、日本人のお家芸。かつ小市民である俺の最も得意とするところ。油断は――ない。
「……スキュデリ」朝から、ご機嫌斜めだったこいつも、毛皮を売って手に入る金額を耳にしてからは、少し機嫌を直していた「なんでしょう?」俺は小声で話かける。
「……メルトゥイユの話によると。ギルドが教会経営になってから、街の治安は悪くなったらしい……。良いか? 俺らは今や、少なくはない金を使える立場になった。ありとあらゆる厄介事に注意を払え。良いな」海外旅行における、日本人の心理を発揮する俺。海外旅行なんてしたこともないけどな!
「……お任せ下さい。主命として賜ります」(頼もしい!)
金さえあれば、酒を買い込んで飲んだくれるネルや、大剣を振り回す以外には、びっくりするほどポンコツなクィンヒルデ。やたら血の気が多いウルリーカとは訳が違う! 安心感が素敵! 街には、こいつを連れて来て、本当に正解。




