大金が転がり込む
「――あんたら、何者かね?」眼鏡越しに訝しむ店主に訊ねられる。
「ワーグの毛皮をこんなに大量に……。熊や、猪なんかの獣とは訳が違う。……毛皮の傷も、ほとんどが小さい。毒矢を使ったのだろうが……。一番、大きな群れの頭の毛皮には、信じられんことに……。どこにも矢傷は、見当たらん……。毒殺するにしても、ワーグほどの化け物が、それに易々と引っ掛かるとは……とても思えん……」
(なんか……今日は朝から、人の詮索が痛い日だわ)
所狭しと並べられた、高級そうな狐や貂などの毛皮。毛皮独特の匂いで満たされた店内で――ワーグの毛皮を、金に換えるため鑑定を頼んでみたが……。
「……まぁ、別に。御法に触れることは特にないし、詮索はやめるとしよう。毛皮が48枚、頭の毛皮は、特級として扱わせて貰うとして……合わせて金貨で……」
「……き、金貨?!」耳を疑った。
ネルから教えられたシルウェストリスの知識に依るなら……とんでもない額になる。
大量生産、大量消費が当たり前の日本と、こちらの世界では物価が異なり過ぎて……一言で幾らとは、言い表し難いが……。
「不足かね? 王都であれば、もっと高く、買い取ってくれる店もあるかも知れんが……この店では、これが限界だよ。申し訳無いがね……」
「……そ? それで? おいくらほどに成るんで?」
なんかもー……揉み手でも始めたい気分! 現金が乏しい家計を考えれば、有難いことこの上無い。兎に角我が家は、人が増えて物入り過ぎる訳で――。
「……合計してアレクサンドラ金貨(……良貨だと聞くぞ?)で、165枚。悪いが……金額が大きすぎて、即金では用意できん。商工会に行って、金を用意しなくちゃならん。昼過ぎには渡せるとは思うが……。どうかね?」
金額に気を良くした俺は――、一も二も無く手を打った。




