そして誰も居なくなった
中世ヨーロッパの頃、遍歴の職人や後ろ盾も地盤もなく、ギルドへの加入が認められなかった職能を持つ人々が寄り集って、緩く運営されていた兄弟団的な性質だったギルドが――教会が、運営を引き受けるようになってから。
いきなり規則、規律、清潔、誠実、信仰を尊ぶ――中世後期だったか、近世にイングランドで形成されたと言う、フラタニティ(信心会的)な組織に急変してしまった訳だ。
ちゃらんぽらんと生活していた人たちに、刑務所の生活か、軍隊での規則・規律だらけの生活を押し付けるようなものだ。ついて来る人が居る訳がない。
「……ギルドで働く人、少なくなったんでしょ?」
「ど、どうしてそれを?!」
(教会が建つ以前の、ギルドの立地を見て気づかないものなのか……。仕事で交流の場も必要だったから、酒場が併設されていたんだろうに……)
つまりは現世では珍しくもない、運営トップが変更されて組織が変化した結果の、ごたごたに起因する問題……と。
「んで……。仕事を引き受ける人が居なくなって、ギルドが回らなくなった……。そんなところ?」
「ハイ……。恥を忍んで申し上げますと……。正確には『ギルドで働く人が、少なくなった』ではなく……。私と司祭様以外、居なくなり……そして先日、その司祭様も本部に召喚され……恐らく……責任を追及されて更迭……されるのではない……かと」
青い顔をしつつ、自身の想像に口元を押さえて震える彼女。
「泥縄な気がしないでもないけど……それで腕っ節の立ちそうな人間を探して回っていた訳だ。ギルドに届けられる仕事を回すために」
ここに来てようやく俺は、運ばれて来て、そのままだった酒に手を伸ばし、口を付けた――。なんかもう……飲まずにはいられなかった。
 




