トンボ反りは、ちょっと
どこかに宿を取って一泊しようかと、提案しようとしたところ――
「では♬ 今日は、これくらいにして帰ることにしましょうか。一時も走れば家に帰れるハズですから、夕食には間に合うかもしれません」
有り得ない案を先に提示されてしまう(こいつらと俺とでは、本当に種として違うんだろうな……)
眉間を押さえて考え込んでいると、顔を覗き込んで来るスキュデリ。
「どうかなさいましたか? 御屋形様?」
「……いや」顔を上げて辺りを見回し「通用税で、また金を取られるのも馬鹿らしいし……今日は、ココに一泊して……明日、朝から毛皮を扱ってくれる所を探すとしようよ」
俺のプランを彼女に提案。
「……では、宿を探しませんと」俺との身長差も5~6㎝では、きかなそうな長身の彼女が――首を巡らす。
(クィンヒルデといい……横に並ばれると俺、全然、絵にならんだろうなぁ……)
人生の中で、特に低身長のコンプレックスを抱くことなどなかった、平均も平均な標準的な身長の俺だったが――。
こいつらとの関りを持つようになって以来、劣等感を刺激され続けることのひとつが、コレ。
(……かと言って、仮にこれ以上……上背が伸びたとしても)
人間社会の中では、悪目立ちするだけでしかない。
その上、こいつらの部族の中では、ツォンカパに言わせるならば、やっぱり「チビの痩せっぽち」に過ぎないに違いない。
(種として違うんだから、気にしても仕方がないけど……)。
考えるだけ馬鹿らしい事と、今夜の宿を探すため頭を切り替えようと、かぶりを振る。
「あのぉ~? すいませ~ん。ちょっと良いですか?」
――現代日本であれば、街行けば度々、耳にした煩わしい声。
まさかなと思いつつも、声の方に振り返ってみると、そこには雪の様に白い肌に――黒髪を、随分手間が掛かりそうな縦ロールにした
教会のシスターを思わせる装束の女性が、にこやかな様子で立っていた。




