薄暗い公園の片隅で
購入する商品を選別する、騒々しいやりとりを店の迷惑も顧みず、繰り返したが──ネルが、買い物カゴ一杯に放り込んだ「どう考えても不要な商品」の全てを、はじき出すことはできず。
気がついてみれば、自分の買い物は全くできないまま
紛れ込んでいた工作用カッター・ナイフの替え刃、100枚入りセット(1355円也)なんかに、金を支払う羽目に。
(何に要るって言うんだよ……こんな物、2~3枚もあれば充分だろ)
* * *
……しゃりっ……しょりっ……しゃりっ……
欲しかった物を、全部は買って貰えなかったネルは、しょぼくれて
『巣』への帰り道があると言う、近所の公園に俺を案内した。
途中のコンビニで買った、御所望の冷凍カット・マンゴーのパックを破ると、直ぐに噛み砕きにかかる彼女。
「……全身タイツ……絶対愉しいと思ったのに……」と、そんなことを未練がましく ぼやく。
流石に、なんだか少し可哀想に思えはしたが──買ったところで、俺がそれを着るなんてこと絶対無いからな?
2本も買わされた、容量5ℓのペットボトルの重さに腕が痺れ始めた頃、辿り着いた公園の時計は、──24:00を回っていた。
「こっちよ」
人気の無い公園の片隅、樹木の影に案内される。そこには人知れず設置された、八角錐状の尖塔を思わせる、黒い石のオブジェ。大きさは、全長80㎝くらい?
「……えっと、なにこれ? ちょっとお高い……わんこのお墓か何か?」
「……違うわよ。アタシたちの『巣』がある世界と、こちらを繋ぐ『門』よ。これを用意するの、お身内価格でも結構、高かったんだからね?」
ネルがオブジェの前にしゃがんで手をかざす。
(……つまり、これはゲームなんかであるアレか? このオブジェが、転移装置的な何かで……使うと、やたら派手なグラフィックが挿入されて、別ワールドに飛ぶみたいな?)
自身の人生で、こんなたわけた出来事が起こるなどと夢にも思わなかった。
そのことに、ほんの少しだけ興奮を覚えたが……。
それもすぐに期待外れの失望感に、置き換えられた。