……違う、そうじゃない
周りのオークたちは、俺たちを遠巻きに囲み。その様子を、なにやら囃し立てていた。完全に見世物のそれ。
「もうイイよ。お疲れ。や~、上手いもんだな。アリガトさん」
正直、そうでもなかったけれど……。ここは、そう言っておくべきところだろう。
「他に求めることを言って頂きたい」最初に泉で出会った時の怜悧な声音。
「……う~ん。美人に肩も揉んで貰ったし、満足したしさ? もう良いよ。ツォンカパの遺言状の立ち合いも終わったんだろ? 部族の元に帰れば良くないか?」
「それは……私は……必要無いと言うことか?」悔し気に唇を噛む彼女。
「必要無いと言うか……」オークたちを相手に、曖昧な表現はトラブルの元でしかないことを思い出す。「……いや、そうだな。必要無い」
「……そうか」
クィンヒルデはそれを聞くと、踵を返して、自身の大剣の元に向かうと――帰り支度を始めるのかと思いきや、刃を地面に突き立て
「勝者に要らぬと言われるのであれば! この命に価値など無し!」
魔剣に向かって額を叩きつけんと、火に照らされて、美しく輝く金髪を振り上げて、大きく背を仰け反らせ――
「……と、止めろぉ! お前らァ!」
普段察しの悪いオークたちにしては――いや、こいつらにとっては、当たり前の反応だったのか? 実に素早かった。
寄ってたかってクィンヒルデを、取り押さえ、大剣から引き離す。取り押さえられた彼女は、足搔く様子も見せず「何故、止めた?」言葉少なく……伏し目がちに。
「ね、寝覚めが悪いんだよ」バクバクと鳴る心臓を押さえながら。
「……それは……失礼をした」素直な謝罪「では、貴方の目に届かない所で……自刎し……果てることにする」
(……違う。そうじゃない)
「いや、だから……。なんで、そう……死のうと……するかなぁ」おかしなことは……何も言っていない……ハズ。




