クィンヒルデからのお誘い
埒外のバカな話を、このオークらしからぬ理知的な女性は――しばらく真面目に考えた後で、困ったような表情を浮かべて
「その場合……先に闘諍にて降した……。この部族の生まれであるウルリーカと、スキュデリに自害を命じた後で――頌の部族と我が夏の部族とで、干戈を交えるより他無いな」
八方塞がりな返答。戦いに勝った方が、敗者の全てを要求できる――このオークたちの、冷徹過ぎる流儀に従う以外に、丸く収める道はどうやらない様子。
いつの間にか、周りの煽りたてるオークたちの喧騒は静まりーー皆、俺とクィンヒルデのやりとりに注視する空気が辺りを満たす。
「……分かったよ」
観念した俺は、クィンヒルデからの闘諍の申し出を受けることにした。
(……死ぬことはないかも知れんが……痛い思いするのは、嫌なんだけどなぁ)
夜の森よ割れよ、とでも言わんばかりのオークたちの歓声が沸き起こっていたが――心、ここにあらずな俺の耳には、まるで届いては来なかった……。
* * *
村の中央で焚かれた火を囲む、オークたちの輪が形を変える。クィンヒルデと俺を囲んで オークたちは皆、一様に興奮して
誰かが、拍子をつけて足踏みを始めると、それはあっと言う間に――祭の様な空気を醸し出した。輪の中央で、向かい合うクィンヒルデと俺。
(……こいつらのこと、嫌いじゃないんだけど……嫌いじゃないんだけど……。どーして毎度毎度、こんな展開になるんだよ……ホントによ)
重さ300㎏以上はありそうな、大剣を地面に突き刺してクィンヒルデは「先ずは闘諍の誘いに応じてくれたことに……深い感謝を述べさせて頂く」火に照らされた顔を綻ばせた。こんな状況でなければ声を上げて、飛び上がって、のぼせ上がりそうになる美女の笑顔。
 




