勘違いがスタンピード
「……イイ、イイぞ。それでこそ……それでこそ、斬り伏せ甲斐がある」(い……いかん! いかん! いかん! いか~ん!?)
「――やってやりゃあ、イイじゃねぇか」それまで火を囲む輪の外で、興味無さそうにしていたウルリーカの有難くもない御提案。
「そうですね……噂によればツォンカパ殿は、ワーグの長を投げ殺してみせたと聞きます! 無手の組討ちを学ぶ者としては、その弟子であるツモイ殿の立ち回り……是非にも拝見したい!」
スキュデリさんでしたっけ? ……ヤメテ、煽らないで。そんなこと言ったりしたら……。
しかし、こういうことを思った時には――往々にして……遅いものらしい。
「おぉ! ツモイ、ツォンカパ仕込みの業を見せてやるがイイ!」
「……そうだな。ツォンカパを偲ぶには……それが一番好いやもしれぬ」
「夏の部族族長クィンヒルデか……魔剣の主と聞く……興味深い」
(……お前等、宣戦布告されてんだけど、解ってんの?)
「先程の返答をお聞きしたい」まるでダンスの相手でも求めるかのように――クィンヒルデは、俺からの言葉を待っているみたいに「私如き、若輩者では不服やも知れぬが……」
周囲は「受けろ」「応じろ」「やれ!」「戦え!」「殺せ」と、――つまるところ一色。
「……どうせ、真剣で、……なんだよな?」
もののぐを携えた、強者との戦いをなにより重んじる――こいつらの価値観からすれば……それ以外には有り得なかったが一応。
「無論」揺るぎない様子で一言(ですよねぇ……)
「今、考えてること……言って良い?」
「どうぞ」
「察するに、強者との闘諍を求めていると思うんだけど……正直、気乗りしないんだよ。仮にもし今、俺が強者の――いや、自分が強者だなんてホント、考えてもいないんだけど……あんたのその認識と言うか、資格を失うために? 泣き喚いてウンコ漏らして、地面を転がって回って見せた場合、どうなるのかな?」
真顔で美人相手に聞く話では……ないなぁ。うん。分かってる。
 




