夏(か)の部族
「……では、簡潔に。頌の部族は元々が、白龍ネルを祖霊と崇める部族。かつての部族間の闘いで、周辺部族を束ねてからは、うろくづの森に移り住み、よりその性格を強めた――ここまでは、宜しいだろうか?」
「お……おう。今のところ、まだ……ついて行けてると思うぞ?」
「亡きツォンカパ殿の遺言は、周辺諸部族の全てを束ね直し、白龍ネルの座す、この森を鎮護し、そのつがいであられるツモイ殿の言葉を聞き、共同歩調を取るように……と読み取ることができる」
「……あ、あぁ。……そうなんだ。特に今までと、何も変わらないんだな? なら、別に――」
そこまで俺が口にしたところで、クィンヒルデは、俺の言葉に割って入り
「申し訳ないが、我が夏の部族は、この時点をもって盟を解消し、頌の部族との闘諍を所望する」
そんなことを告げた――
「……つまり、どーゆうこと?」
火に集まった全ての者が、ザワつく中。
ただ一人、俺だけが――ことの成り行きを、まるで理解できていなかった。
* * *
「簡単な話だ。ツモイ殿」クィンヒルデは、その凛と響く声で
「我ら夏の部族は、頌の部族が祖霊と崇める、白龍ネルなどに興味は無い」
――湧き上がる村の皆の、怒気を孕んだ、どよめき。
「故に、そのつがいと噂されるツモイ殿、そなたに我が部族の命運を委ねるつもりもない」
(まぁ……それは別にね。俺なんて、どこの馬の骨だよ? って、お話な訳ですし)
「彼のツォンカパ殿には、礼は尽くして来た……が――」
「……成程、頌の部族の指導者が代わった今。これを機に……夏の部族だっけ? あんたらが、取って代わろうと……そんな所か? ――それで? そちらの要求は何なんだ?」
夏:⇨中国の王朝名にもありますが、意味は
「豪壮な」「強壮な」と言った意味の様です。
彼の国の原潜にもつけられたところから、
そんな所かも知れません。
 




