殻を破るのは雛の務めと、つがいは云い
抱卵を助けてくれる孵卵器から、エッグ・スタンドを注意深く取り出す。
その間にも、卵は小さな振動を繰り返して、殻を揺らし続けて
「なぁ……姐さんよぉ? まどろっこし過ぎやしねぇか? 殻割って出した方が早ぇだろ? ちっと退きな」
堪え性の無いオークの娘が、いつも通りに。
「だ、だめよ!?」そのもっともな提案をネルが裏返った声で止める「こ、こ、こ、この……殻を破る大仕事だけは……これだけは、これだけは、親が手を貸す訳には行かないのよ!」
卵を生むわ……生むための場所を探して、方々うろつき回って、姿を眩ますわ……挙句の果ては、卵の殻を破るのは、雛に課された通過儀礼と仰ってのける俺のパートナー。
本当にお前……一体、どれだけ動物なんだよと。
呆れかえるばかりの動物の習い性を、次から次に披露してくれる彼女の様子に観念して、諦めて卵を見守ることにした。次第に、大きくなっていく柔らかな打突音。
殻の中から必死に外に出ようとする生命の姿は、胸に迫るものもあったが――でもそれは、なんだかテレビ画面か、ディスプレイの中の出来事の様で、欠片も現実味を伴わなかった。
コンタクトレンズか、枯葉でも踏んだかの――小さな、小さな、音が響いた。途端に声を張り上げて応援の声に力を込めるネル。
……五月蠅いよ。ちょっと静かに落ち着きなさいって。
彼女の柔らかな髪ごと、小さな頭を掴んで抱く様に顔を胸に押し当て黙らせると、それと同時に――今まで、殻を破ろうと格闘を繰り返してきた、ピンク色に染まった……そら豆のようなサイズの足が、殻を蹴破って突き出された。
それを目にした瞬間の――感情と言うものを、説明することは……頭の悪い俺には、到底できそうには無い。




