孵る我が子
そんなもので……この事態に伴う、責任と言う物から逃げ果せる訳も無い。
(でも、だからって……自分の前世に……彼女を寝取られたみたいな……その上、托卵されるの? 俺?)
托卵……そう、これは文字通りに托卵以外のなんでもない。俺は、アルパゴンの揶揄した通り、それを経験する人類初の存在となってしまうらしい。
「ツモイさん!?」
水を流しっ放しのまま、物思いに耽り続けていた俺を――血相を変えたメルトゥイユが、息を切らせてやって来て、呼びかける。
「……急いで、急いで下さい! お生まれになられますよ! お子さんが!」
言うが早いか、俺の手を引いて駆け出す彼女。なんだか最近、俺って……女から手を引かれて――あっちこっちに連れて行かれてばっかりだ。
いつから、こうもダウナー系の男に成り果てたと言うのか……いや、最初からか。
案内されるままに、連れて行かれた先は――屋敷の、俺とネルの寝室の傍ら。そこに拵えられたデシレア快作のベビー・ベッド……と言うよりも、エッグ・スタンドと孵卵器の合いの子。
その周りには女共が、集まって――(ははっ……面白おかしいよねぇ。滑稽だよねぇ。暇潰しには最高のイベント……だよねぇ)
物見高い格闘技イベントの観客の様に、手に汗握って卵を注視していた。その卵の最前列では落ち着きを失って、狼狽えるネルの姿。
「あ、あ、あ、アンタ! 孵る! アタシたちの雛が孵るわよ!?」
柔らかなパステル・カラーのエッグ・スタンドの卵が、小さく揺れて――中から「てんてん♬」と言った、これまた柔らかな 内側から殻を叩く音が聞こえてきた。




