年の功、レベルカンスト
悪魔は、次第に大きくなる哄笑を――もはや隠そうとすることも無く、響かせた後に
「いぃえ♬ 私の名に誓って申し上げますが……存じ上げはしませんでしたとも。ただ――」
悪魔は、一拍を置いて
「長く生きてきた……いや、失礼。私共が『生きている』などと言うのは、烏滸がましいと言うものですね。訂正しましょう
「永く、存在を続けた悪魔であるだけに……人間の皆さんよりは、少しだけ……少ぉしだけ、無駄な知識と経験は……溜め込んで居ましてね?
「奥様の様子を拝見していたら、なんだかですね? 産箱を探して神経質にうろつき回る猫か、朝を迎えるロキシーさんか、レジーナさんか、と言った様子でしたもので……ね♡」
そこまで話すと……ここ最近、多くなった――身体をくの字に折り曲げての嗤いを響かせた。
この悪魔は、それを知っていた上で、俺に教える事も無く、今の俺の惑う様を――思うさま愉しむために、息を凝らし続けてみせたのだろう。
「夜会」の1体から発せられた疑問が渦巻き始め、アルパゴンのいつもの仕打ちに打ちひしがれて、干潟にレーキを忘れたまま、屋敷に戻って来てしまっていた。
いつも通りのルーチン・ワークで、干潟の泥を落としに屋外の水道へと向かう。
胴長に張り付いた干潟のシルトを洗い流しながら考える。
仮にもしネルが、腹に卵を抱えていたとして、そこから生まれ変わった俺を探し出して
再び関係を構築し、その上で卵を生んだ――その意味する所と言うものは、なんだろう。
仮にその……俺と出会う前に腹に卵を抱えていたとするなら、恐らく……お相手は、生まれ変わる以前の俺。オチュア・マブラガニス・ガンツフェルト辺境伯……殿であるには違いない。
――詳しくは無い。詳しくは無かったが……。
一部の生き物の中には居なかっただろうか。産卵に適する環境が整うまで、孵化に適した環境が整うまで、時節を見送ると言う器用な存在が。




