お前は、いつも通り知った上で黙ってた訳だな?
夜会を名乗る彼らの1体が、去り際に口にしたことが、酷く――しこりとなって残り続けた。
乳、おっぱい、母乳、ミルク……。
呑んで善し! チーズを造って善し! ナイトライフにも善し! と、まぁ……ネルと出逢った その日から、今日の今日まで耽溺し続けた乳白色。
それが、なんだか酷く気になって仕方が無かった。
『赤ちゃん産んだことも無いのに出ちゃうのよね……物凄く無意味だわ』
あの日ネルは、そんなことを口にした……様に思う。今となっては記憶も朧気ではあるけれど、不機嫌そうな様子で、確か……そんな風に、ぼやいていた事だけは覚えている。
思い返してみれば……ネルは既に、その時には――お腹に卵を抱えていたのでは無いだろうか。
「どうされたんですかぁ? どうされたんですかぁ? 御主人様ぁ? お悩みの様じゃあ無いですか♬」
* * *
突然現れて、大好きなお気に入りの玩具を目にした仔犬の様に、悪魔が纏わりつく。顔には、隠し切れないニヤつきを、張り付かせて
「アルパゴン」少し考えて、気になっていたことを訊ねていた「そう言えば……お前、この前さ?」
かけられた言葉に、美味しい餌にありついて飛びつくかのように、身をくねらせ返事をする……長い付き合いの忌々しい友人。
「ネルの……事だけど『ここ最近の不可思議は、想像する様な事では無い~』とか、俺に言ってたよな?」
「……はて? 言いましたっけ? そんなこと?」
「言ったんだよ。心に七つの傷を持つ男を舐めんなよ? 痛い思いしたことは、延々……覚えてんだよ」
「うぅっわ……お暗い。お通夜の空気を纏う御仁だったんですねぇ~、ご主人様。でも、それ……他の奥様方に嫌われちゃいません?」
揶揄たっぷりに躱して はぐらかし、こちらを弄びにかかる、魔界――ザイツエ・アルカンの支配者様。
「おまえ……ひょっとして知ってたのか? ネルが卵……生もうとしてたって事」




