頼むよぉ……悩みを聞いてくれってばよぉ
考えてみれば『こちら』にやって来てから知った、神籬の森には俺のヒーロー。ブロイラー・マスクと言う、セリアンスロゥプも居るじゃ無いか。
想像なんて、そこからイメージを膨らませば、ホラ♪ 簡単。
きっと、こんな風に うんうん唸った事にしたって――何年か経ったら……ブロイラーと2人、女将さんの小料理屋にでも雪崩れ込んで?「まぁまぁまぁ♬ まずは一献!」てな具合に、お銚子を押し付け合いながら、お猪口を傾けて……お互いの奥さんと、卵から孵った雛たちの話を肴に、女将さんも交えて……。
……、――、……、――、
人間ッ!! 俺は……超ぉ~っ、ふっつーの人間なの! なんなの?! 卵から孵った雛って! その時点でイメージとか前提とか、みんなまとめて、ぶっ飛ぶから!
悩みごとの大前提からして、もうオカシイから! 俺の手に余る問題と化しちゃってるから!
森の腐葉土を漉き込んで回るつもりで手にしていた、レーキも放り出して、干潟に座り込む俺。
蒸れる不快な胴長の中が冷やされて、ちょっと良い塩梅。
⦅悩みの内容は、どうやら領主殿の……私生活にまつわる事の様なれば……生態も異なる我らでは、相談相手には不足であろうな⦆
聞いてくれるだけで良いと言うのに……煩わしいとばかりに、匙を投げる気配の頭足類の皆様方。逃ぃげぇなぁいぃでよぉ~ぅ……。
必死に傍らに居た1体の、ぬめる触手を手に取って、泥の中に姿を消そうとする彼らを引き留める。
⦅そうは……言われてもな……領主殿。乳と言う体液で、子を育てる存在と言うだけで……我らの想像には余るのだ。引き留められたところでな⦆
触手を取られた「夜会」の1体は、困惑した様に表皮の色合いを明滅させて、俺が掴む手の平から、ぬるりと抜け出して、他の仲間たちと同じく、干潟の泥の中に消えて行った。
(……乳?)




