やっぱ、慌てちゃう訳ですよ
一向に掴み処の無い表情のまま、この地へと押しかけると、干潮時に姿を見せた「夜会」の皆さんに、背鰭を畳んで平伏。
以来、島と、この領内の水辺際に好きずきに集落を築き始めたと言った次第で――この地下世界の普請に、漁業に、水運にと、片手間……と言うよりも熱心に買って出てくれる様になっていた。
そんな訳で、実のところ――俺がやらなくてはならない仕事なんて、これっぽっちも無かった訳だが……屋敷に居たところで、落ち着いて座っていられる訳も無く
「魚人の皆にだけ仕事を押し付けるのは、申し訳ないから」
と、屋敷の女性陣の非難もなんのその――建前を弄して、この地に逃げ込んでいた。
⦅……かような俗事こそ、下々の者なり、下僕に任せれば良いのだ領主殿⦆
いつもの様に干潟の泥の中を触腕で漁って、獲物を捕らえて口に運んでいるのは、アプカルルと魚人たちから呼ばれて崇められる存在となった「夜会」のお歴々。
⦅素性の良い伴侶と、子を成す事こそが、支配者の果たすべき責務では無いのか?⦆
彼らの言う俗事を逃げ口上に、干潟に転がり込んだ、俺を『邪魔だ』『迷惑だ』とでも言わんかの皆様のお言葉が、刺さる刺さる。
けれども、そうは言われても……。
『素性の良い伴侶との』だなんて、まず俺が――どこの馬の骨だよ? と言った感じだし、そこには目を瞑って貰うとして こさえた『子』
これが、もうね……まさかの卵。
これを手放しに喜べる人間って、一体どんな人生送って来た奴だよと……。絶対、サイコパスな精神構造してやがるに違いない。
と言うか……孵った姿ってのも、まるで想像がつかない。
(そうでもないか)




