アプカルル
皆さんが、日々の生活を取り戻した頃。
数十年から、百年といった単位の周期で、その生を終えて――地下世界、クレピュスキュルの森に恵みをもたらし、
ひいては、あの干潟をも育んで来た存在、ハカバダイダイスズホコリさんが、若返ってしまうという事態に見舞われたことから
薄明の世界は、精密に組み上げられていた、そのサイクルが完全に崩壊することが、陶片の娘たちによって予見され
当の事態を引き起こした俺、以下――屋敷の面々は。その責任として、森と干潟の維持に尽力する運びとなり、またもクソ熱い この場所で、ゴム引きの胴長着用の上、額に汗すると言う――地味地味ジメジメした作業に忙殺されることが決まった。
「こ、こ、この……キノコっ! 傘の形が……地上のものと、違うザンスっ!?」
嬉々とした声を上げて、興味が湧いた場所には、問答無用で顔を突っ込んで来るガロワ公が、真新しいスケッチブックに、万年筆を舐め舐め
(……この湿度の環境でペン先を舐める必要性があるのかどうかは分からんが)
見つけたキノコの絵を――精緻極まる筆運びで描いていた。
「ザンス……ノク、イイ」
キノコの前にしゃがむ公を邪魔そうに避けて、うろくづの森から運んできた腐葉土を撒いて回るのは――魚類なのか、爬虫類なのか、両生類なのか……ともかくそんな類の方々、魚人イプピアーラの若衆たち。
彼らの村に疎開で転がり込んだ領内の人々より、この地下世界の存在の噂話を……何処からともなく? 耳にした彼らは、
(本当に一体、どこから話が漏れたのやらと、言った所ではありますけれども。ねぇ? キーラ子爵家令嬢様?)
この地が、彼らの崇める伝説の賢人、アプカルルとやらが、住まう地に違いないと――いつもより……パクパクと激しく鰓を開け閉めして『アンナイ、スル、イイ』と詰め寄って(なんか……こんなキャラ、ぷよぷよで見た気もするな)




