泉の3人
「待って! 待って下さいウルリーカ! これ! この剣!」
背後の気配からすると、投げた剣に向かって走ったであろう、灰色の肌に くすんだ色合いのブロンドのオーク女性から声。
「おー♪ スキュデリ、気が利くじゃねーか。その剣で、この覗き野郎ブッ殺せって?」(……の、覗き野郎)
――ウルリーカと呼ばれた彼女の言葉に打ちのめされる。
「違います! この剣! ツォンカパの剣ですよ! 間違いありません!」
「はぁ? この覗き野郎が、ツモイって奴だってのかよ? どー思うよ? クィンヒルデ?」
「とりあえず水から上がれ、お前たち。服を着ろ」
「……ちっ。久しぶりに血を浴びれるかと思ったのによ」
交わされるやりとりと、背徳感たっぷりの衣擦れの音を耳にして――待つこと、数分。
「……お待たせした。こちらを向いて頂いて構わない。お気遣い痛み入る」
お許しが出た御様子。オークの言葉ではなく、流暢な共通語。
『出歯亀野郎』『覗き野郎』と言われて、俺は――虚ろな目で肩を落とし……彼女らの方に振り向いた。
先程、ウルリーカと呼ばれた娘は、胸と腰を布で巻いただけの、オークらしいといえる薄着な格好で
自前の長剣を佩き、円盾を背中に腕を組んで――面白く無さそうな顔で、木立を背に立ち
声から察するに、長剣に向かって走ったのが、スキュデリ? ……なのか。
アッシュ・ブロンドを鳥の尾羽か、なにかのように後ろに跳ね上げる形で纏めて、髪留めでアップに纏めていた。
彼女も、ウルリーカと同じように薄着と呼べるほどの軽装だったが、武器ひとつ携えず――逆に得体が知れなかった。
物腰は、この3人の中で最も……それこそ、オークらしからぬほど、穏やかな空気を携えてはいるのだが……。




