すべての母の唯ひとつ、宇宙開闢以来の
背中を叩かれた勢いを殺そうとよろけ、ネルの前に、つんのめりそうになる俺。
⦅止まりなさいッ!!⦆
ここに来て幾度目かになる、ネルの声を用いない声。
それと同時に強固な暗示にでもかかってしまったかのように動きを止める俺の身体。
⦅……ゆっくり、ゆっくり立って⦆
ネルの声のままに俺の身体は動いて、崩れかけた体勢を整える。
――そして
……薄暗い洞の中を見ようと、タバコも吸わないのに、無いと困ることが、多くて手放せ無くなった
暇にあかせて、細工を施した5面手彫りのライオン&リーフ……実のところ、ライオンの一頭が、少し見切れて失敗したジッポ。
それをポケットを探って取り出し、
独特の甲高い音と、ホイールがフリントを擦過する音と、篭った着火音が、合わさって灯る 火をかざして――どれ程ぶりになるのか……ネルの顔を目にする。
薄暗い場所で、突然灯された灯りに眩しそうに目を細める彼女。心配する必要が無い事は、分かってはいたけれど……健康には、問題無さそう。
そして、そこにきて俺は漸く――彼女が、
大事そうに抱きかかえているものを、目にしていた。
大きさはダチョウのそれを、ふたまわりは大きくしたような――卵。
ライターの明かりに照らされた それは、一点の穢れひとつ見えない、雪原のような色合いの、タマゴ。
俺が目をぱちくりさせて、その卵を見ているとネルは、噛みついてきそうな勢いで、口を開いて――
「アンタの卵よッ!」
力強く、無理矢理であろうと理解させようと、この卵のオーナーが、俺であることを告げた。
* * *
一切の言葉も漏らすことすらもできなかった。途端に、もはや限界とばかりの悪魔の嗤い声。
「じ……人類初ッ! 人類初ですよ! 御主人様! あは! ……ぷっくっくっく……も、も、もー駄目……私、限界です」




