彼女の歌う声
立ち去る小さな背中を見送って、ひとつ息を吐く。
気が付けば――こんな場所に、短くは無い時間、立ち尽くしていた。部屋へと向かおうとするけど、足は夢遊病患者のそれ。
……じきに義兄たちも、一仕事終えた後の汗を流しに、屋敷に雪崩れ込んで来る。酒のひとつも振る舞って、礼の一言も言わなくては……
攻城兵器たちが撒き散らした騒音の反動か……今日は、いつにも増して――やけに静かに感じられた。
なんだか、肩まで酷く重い……。
「ツモイさん!?」
声に振り向いてみれば、今日は屋敷で居残りとなっていたルチェッタが、長い耳の先までピンクに染めて――荒い息。
なにか有ったのだろうかと、首を傾げようとしていると、
獲物に襲い掛かる、イタチか貂かフェレットか、と言った、信じられない速度でこちらに駆け寄ると、手首を掴んで「ついて来てください!」と走り出した。
訳も分からず、手をひかれるままに――ついて行くと「奥さんを多分、見つけました!」向かう先についてを口にした。
* * *
案内されるままに走った先は、うろくづの森の奥も奥。鬱蒼と茂る木々が日の光を遮って、早く沈むこの季節の太陽を思えば、じきに ここは真っ暗闇になる。
そんな頃合い。
森の開けた場所に辿り着いていた。ルチェッタが身を屈めて、息を殺して視線を向ける先には、街の街路樹の幹の太さはありそうな――恐らくは茨。
蔦が絡み合い、大樹の様になった奇妙極まる植生の自然物。
森に親しむ彼女や、頌の部族のオークたちであれば、確実にランドマークとして記憶するだろう、森の中で異質な存在感を放つ、それから――歌声。




