あれっ? ……どうしよう
公の卓越した馬術によるものか。
主との死こそを誉れとする、気位の高い愛馬の必死によるものか。
辺りを揺るがす振動の中――公も槍を構えて見事な突撃の姿勢に。
「相対速度! 時速671キロメートル! 激突! 今っ!!」
陶片の娘、トキノからの報せを耳にしていたまさにその時。俺は――実に困り果てていた。
……う~ん。オカシイ。
ここまで汚れ役を買って出て……圧倒的な目に見える戦力差を披露したと言うのに、公が勝負を投げなかったのは――計算外だ。
江戸期の道場破りに千葉周作の道場に押し掛けた道場破りが居た……と言うが。
その道場破りは長い刀での突きを得意としていた事から――千葉はそれの相手をするため、盾のように大きな鍔の竹刀だか木剣を手にして相手をしたとか。
そんなノリ、そのままに――俺はバカげた茶番まで弄して……とんちを利かせたつもりで。
勝負を御破算にするつもりの予定でいたのに……。
なんで、そのまま勝負が始まっちゃってんの? いや、ガロワ公……死んじゃわない? これ。
……いや、死んじゃうよね? 『ボトル』で癒す事も……できそうにないくらい、木っ端微塵に、ぱっ! と散って散華ッ! って感じになっちゃうよね。
「――激突! 今っ!!」
トキノの声に我に返ると、両手の制動棹を壊さんばかりに握り締めていた。
だからと言ってカルマンキドゥラの体重と、咎の神像の質量。慣性が殺せる訳でも無い事に気付いたのは、公を正確に捉える槍の穂先が、彼を消し飛ばす間際のこと。
(……あ、スキュデリに頼まないと止まる訳……無いじゃん)
* * *
スローモーションの光景のように、クリスマスのもみの木にも似たサイズ感の馬上槍が、公を辺りに撒き散らそうとした刹那。
俺の集中に集中を重ねていた……らしい視野は、斜め後方へとすっ飛ばされて暗転。




