逃げた方が賢明な気も
泉に近づくにあたり、いつもの小道は通らずに迂回して、藪を掻き分け近付くことにした。
仮に本当に頌の部族の連中が、敵意を持ってやって来ているのだとしたら――想像するだけでも、そら恐ろしいことではあるけれど。
見つからないように行動し、一戦も交えること無く、ネルとヴィルマを抱えて逃げるのが得策に思える。
ネットや掲示板で目にしていた「オーク」についての様々な情報の中で、俺が一番警戒していたのは「他種族であっても異性を繁殖相手として用いる」と言う点。
そんな訳で、今日までネルもヴィルマも、ツォンカパにすら未だ会わせたことも無かった訳だったが――間抜けにも、考え事をしながら藪を掻き分けていたお陰で
唐突に藪が切れたことに気づくのが間に合わずに、堂々と姿を晒す形で泉に乱入してしまっていた。
泉に入り込んでいたのはオー……ク? そこに居たのは、尖った小さな耳にグレーの肌、もしくは淡く青い肌の……水浴び途中の女性が3人。
そして彼女らの内の2人に、チヤホヤ、チヤホヤ可愛がられる、野生を失った我が家の小太郎くん。
彼女たちは一様に強豪の女子バレーボールの選手のような長い手足と、鍛え抜かれた背中と肩と足腰。
それと整った――とてもオークとは思えないほど、整った顔立ちの持ち主たちだった。
口から小さく覗く、八重歯にも見える犬歯を除けば、頌の部族の村で見たどのオークにも似ていない。
もっとも俺が知る、あの場に残って居たオークたちは、年老いた者ばかりで――若いオークの女性を目にするのは、これが初めてであった訳だが。
この段に至っても。彼女たちがオークであると断定できる要素は……まるで無かった。
体色と女性にしては、がっしりした体躯と、口から覗く犬歯を考えれば……間違い無いのだろうけど。




