これは「馬」です
魚類のハリセンボンのように、全身に隈なく生やした長剣を思わせる棘を寝かせて、デシレアに仕立てて貰った鞍を乗せ、鎧を纏った――かつてのカンプラードの神獣。
カルマンキドゥラの背に、咎の神像ゲシュパキアドに搭乗した上で、堂々と跨る……俺ッ!!。
……恥? そんなものは、知らん。
専用に設えて貰った馬上槍を掲げると、愛馬として今日働いてくれる ギュナナの鬣に紛れたスキュデリが、巨獣を走らせた。
* * *
「絶っ……対! 下のそれ! 馬じゃないザンスよね! ホラっ!『ぐるるるっ』って!『ぐるるるっ』って! 言ってるザンス! 言ってるザンスよね?! 蹄!? 蹄も無いザンス!!」
必死に水入りを挟もうとする公。けれども俺は、自身のアスペをフル稼働させて、それを黙殺。
「――いいえ。これは馬です。少なくとも辺境伯領の言葉では、これを馬と呼びます。私がそう決めましたので、そうなんです。そんなものらしいのです」
俺が進呈した、ヘアジャムで整えた自慢のカイゼル髭を歪ませて、非難の声を上げる公。
スローンに座して、物見高い観戦モードの方々の映像に目を向ければ「か……かっちょ悪りぃ~……。マジかぁ……ツモぉイ。かっちょ悪りぃ」(黙れ! 猫目!)
「……もはや、見るまでも無い。いつも通り……義弟の勝ちだ」(応援、宜しくな♪ 義兄ちゃん!)
「ぷっぷっぷっ……これは絶対に歴史に残る。おにーちゃんの名前が、歴史に残っちゃう♡」
(ありがとうなぁ~デシレア。でも……可愛いお顔が、いつもにも増して、真っ黒だぞぉ? どうしてだぁ?)
とまぁ? モニターにフォーカスされる、皆の表情を見回した後で――
『では! ガロワ公! そろそろ始めましょう! 申し出によれば、それぞれ……16馬身ずつ、間合いを離してからの疾走開始でしたね?! 今から開始位置につっきまぁす!』
俺の声が、外部に伝えられると、公は必死の身振り手振りで、こちら側に なにかを伝えようとしておられはしたが――




