ぽかぽかのタイマン日和
馬上槍を手にしてチャージでも決めるのか? と言った勢いと、軍馬の様な鼻息の荒さで、風呂へと駆けて行った。
(今夜は……スキュデリの部屋に……匿って貰おう)
* * *
果し合いとも言える一騎打ちの指定日。天気は晴天。気候は、うららかな小春日和。
少し離れた場所に『門』で向かうと、自軍の側には戦場でのドレス・コードである、とでも言うかのように
貴族の娘っこたちが、デシレアの手掛けた美術品と言っても過言では無い、スーツメイルを身に着け、頭頂部の各家の紋章から意匠された兜飾りを連ね、
馬鎧を纏う、重馬ペルシュロンに跨り
手にした異形の馬上槍、カルタゾノスの穂先を上に向けて整然と、今日の主役である俺の登場を待ち続けていた。
対する王国側からは、先日のスーツメイルを身に纏ったガロワ公が、陣中奥深くから、進み出て――馬の腹を蹴ると、こちら側に向かって走らせた。
そして辺境伯領の、今や守護神と化した騎士人形たちの前で、脚を止めると
「此度の申し出を……聞き入れて下さった辺境伯殿には、本当に言葉も無いザンス! して辺境伯殿は、いずこザンスかっ!?」
俺を呼ぶ声。
……正直、この段になってさえ。人目が集中するような場に進み出るのは――気乗りがしない。これがまた、ブロイラーと共に……と言うのであれば、何故か話は別になって来る訳だが。
ハンズフリーを通して、耳に届くトキノの声。
「巌流島みたいに……しばらく放置する?」
策と策の間にまで更に策を、ねじ込まなければ気が済まない、この子らしい提案ではあったけれども――相手は、あの究極の自由人。
こちらが、ひととき ふたとき遅刻した所で――馬上から仰ぎ見る、空に浮かぶ雲の流れを眺め、足元の小さな野の花を愛でて愛でて……平気で1日、2日の時間を潰して見せることができる御仁。
……だと、俺は思っている。
そんな小細工を弄した所で……と言ったところだろう。
「本当に……気乗りはしないんだよ……」
陶片の娘に、そう言ちて――俺は、親愛の情すら抱く、公の前にへと姿を見せる事にした。




