臓腑を抉る言葉の刃と言うものは……確かにあるのだ
「もぉ~♪ やさぐれちゃって♫ そんなんだから、お屋敷の娘さんたちから、距離を置かれちゃうんですよ? 大奥様が今の御主人様を見られたら、嘆かれますよぉ?」
頬に当てられたパフが、顔を横一文字に横断する。ドッと寝椅子に力尽きて倒れる俺。
「あれあれあれぇ? やはり本当に重症のようですね♪ あぁもう! 嗤っちゃいますから♪ もっとシャンとして下さいよ♬」
「……お、おまえ……ネ、ネルの事は……ネルの事を口にするのは……禁止だって……い、言った……だろぅ」
「つい、うっかりに御座います」
悪びれる気も無い癖に、嗤いを噛み殺して
「トキノお嬢様たちからの報せなんですけどね? 王国側……そろそろ限界みたいです。さ、仕上げにかかって下さい♪」
故意の言葉の刃を突き立ててくる。
寝椅子に横たわったまま、身体を起こす事もできないと言うのに――悪魔はそんな事、気にも止めてくれる様子も見せずに
仕事を片付けろと せっついていた。
* * *
王国軍の士気の低下は、傍目に見ても酷いものだった。
日が昇り、陽が沈む迄の間。騎士人形たちが手にする箒で、弄ばれ続け疲労困憊にまでは叩き込まれるものの、そこから先は絶対に無し。
日が沈む頃には――もはや、軍中で隠し果せることも出来なくなった「緑青の聖人」が現れ、指先のささくれまで癒してくれる。
食事時の攻撃どころか、睡眠を妨げる夜襲なんてものも絶対に無し。退却間際には、騎士人形の方から「また明日ねぇ♪」と手を振られる始末。
溜まった鬱憤を辺境伯領での略奪で晴らそうにも、向かう先々には「……どこで知った!?」と慄く王国軍側を的確に先回りして
「かぱてぃかぱてぃかぱてぃ!」と、箒を手に通せんぼする騎士人形たち。
まともな戦いの形にすらならず、この時代の軍の士気を最も高揚させる手立てであるところの略奪すらも許されない。
戦果は上がらない、仲間は傷つかない、懐は潤わない――信じ難い戦場。
となれば当然の如く、兵たちは弛みに弛みきる。




