本日のノルマ、25リットル
ネルが、遠い目をして呟く。
構わず、俺は量販店の家電コーナーで購入した電動母乳搾乳機ダブリューを、ネルの乳首に ひとつずつ取り付ける。
「ハイっ♪ ハイっ♪ ハイっ♪ なのじゃ! スイッチ! スイッチは是非、わしに入れさせて欲しいのじゃ!」無邪気に手を挙げて、電源のスイッチをせがむヴィルマ。
「……十年、早い」
求道者と化した俺は、ヴィルマの申し出を一蹴。
そして電源をON。
きょぱっ……きょぱっ……きょぱっ……きょぱっ(ちゃ~)
きょぱっ(ちゃ~)……きょぱっ(ちゃ~)
きょぱっ(ぴぴゅ~)
みるみる180㎖搾乳可能なボトルが一杯になって行く。ボトルが一杯になると装置から外して、中身をミルク缶に流し淹れ再びセット。搾乳を再開。
「……ねぇ……アンタ?」
「なんだ?」
電動母乳搾乳機ダブリューに、乳を搾られながら、ネルは口を開く。
「この機械を使って、アタシのおっぱいを搾って……それでチーズをこさえようって、アンタの発想には……そりゃあ正直、震えたものだったけど……」
「……それが、どうかしたか?」
再び一杯になったボトルの中身を、てきぱきとミルク缶に投じる。
「……発想の……猟奇さに反して、これ……この絵面……すっごい地味ね……おまけに……何だかマヌケだわ……」
「……? 言いたいことが理解できん。無駄口叩いてないで、集中しろ集中」
「集中も何も……」
作業開始早々に、すぐに飽きたヴィルマはネルが腰掛けるベッドに横になって、鼻歌交じりにお絵描きを始め――そのまま寝落ち。
「……アタシも寝ていい?」
ヴィルマの寝顔を目に――ネルは、なにやら しんどそうに。
「ダメ。この容量25ℓのミルク缶を一杯にするまでダメ。これからコレ、毎日のノルマだからな? 頑張って行こう」
「……マジですか」
俺の言葉に、ネルは項垂れて、深い息を吐き出していた。




