外見偏差値に天地の開き
20年の人生の中で存在しなかった『人目を集める』といった慣れない経験に──体力と気力をごっそり削り取られ、次第に見えて来た、量販店のマスコット・キャラクターのペンギンが、何故か酷く恨めしく思えた……。
「ちょっと、アンタね──」
なにやら少し、不機嫌そうな声でネルが話しかけてくる。
(……ごめん。今、マジで周囲の視線が痛すぎて……。尋常じゃなく余裕無いんだけど)
口を開くのも億劫なほど、すり減らしていた俺は、彼女が頭の中にすらプライバシーを許してくれないことに、すっかり順応できてしまっていたこともあり──横着して頭の中で返事を返していた。
傍からすれば、正気を疑われる精神構造に違いない……。
けれども、この時。人生で初めて受ける女性からの束縛(?)と言うものに……なにやら、心地好さを感じていたようにも思う。
「こんな綺麗な、つがいと一緒に外出してるってのに……もーちょっと愉しそうにできないの? 普通、こう言うシチュエーションって、誇らしいとか、嬉しいとか、思うところじゃないの?」
(それは全然、俺のキャラじゃ無いんだよ……。石の裏のダンゴムシみたいな、慎ましやかな人生を歩いて来たのが俺なんだって。例えるなら、この状況は……住処から引っ張り出されて、直射日光に曝されているのに等しいんだわ……)
「ふぅ~ん……まぁ。相も変わらず、アンタらしいと言えば……アンタらしいけど……」
さも、つまらなそうに呟きながらもネルは──死に別れる前の俺と、今の俺を照らし合わせたのか、一応、納得した様子。
そうこうしている内に、ネルのお目当ての品を扱っている店の前に辿り着く。
散歩で飼い主を引き摺り回そうとする子犬のように俺の腕を引いて、店の中に駆け込んで──入り口に積み重ねられていた買い物カゴを、ネルは俺に持たせると、目的の商品が置いてあるコーナーに迷うこと無く、嬉しそうに一直線に向かった。