わしのロアが、そう告げておるのじゃ
「とりあえず……空港から出たバスに、この子の忘れ物が無いか確認……かなぁ。事情が事情だし、後は特に何も無ければそれで……。この子、日本語ダメみたいだから、少年課で英語ができる人が居れば、英語対応ができるホテルなりに、送って貰えることになるんじゃないかなぁ?」
俺が調書に書き入れた項目に、不備が無いかを確かめたお巡りさんは、上司になにやら相談して、電話をかける。
「何を話しておったんじゃ?」
むっちゃむっちゃむっちゃむっちゃ……。口の中をハイチュウで一杯にさせて、俺と警官のやりとりの内容を聞いて来るヴィルマ。簡潔に説明して「あんまり、お巡りさんたちに御迷惑をおかけするなよ?」釘を射す。
「この国のポリスは、ふぁっきんなほど親切なのは、わかったぞ♪ 安心するのじゃ」分かったのか、分かって無いのか……。
「じゃあ、俺はこれで帰らせて貰うからな?」
電話中のお巡りさんに会釈をして、そばに居た婦人警官のお姉さんに確認すると「お疲れ様でした」と労いのお言葉。
その俺のやりとりを、見ていたヴィルマは「失せ物は、冷蔵庫の上にあるとロアが告げておる。世話になったの」それだけを口にすると、またウットリした表情で――ハイチュウを口に放り込み、噛み締める。
「……ブドウじゃろ? イチゴじゃろ? オレンジじゃろ? リンゴじゃろ? 一緒に口に入れると、色んな味が同時に拡がるのぉ……。クっソ、ふぁっきんなほどに、美味しいのぉ……本当に、これは神の食べ物じゃのぉ……」(……失せ物? ネルの給料袋?)
子供の取るに足らない戯言と、考えればそれまで。けれども なぜか、ヴィルマのその言葉には、実体を伴った――説得力とでも言うものが感じられた。
(ネルぅ? 今からそっち行くけど、合流してくれるかぁ?)
指輪で呼びかけて、もう一度、派出所の皆さんに会釈すると俺は、その場を後にした。




