モブ過ぎません?
「アンタが、亡くなった理由? えっ……と」
俺からの質問に一瞬、言い澱んだように見えたネルの表情に、身構えもしたが……それは、まったくの肩透かし。
「……アンタがね? こまごました物の買い出しに出かけることがあったんだけれど……多分、巣に戻る途中の、岩棚の細い道で……崖から落ちて……死んでた?」
「ど、ドラマチックな展開は無いのか?! もーちょっと……もぉ~ちょっと……繕わない?」
「そんなこと言ったって……」
聞かれたことを素直に答えただけで、不服を申し立てられたネルが、唇を尖らせる。
「帰りが、遅いなぁって思って? アンタが買い出しに向かった、街の途中まで迎えに行ってみることにしたら、アンタ……崖の下に落ちて、とっくに死んでたんだもの……。死んですぐだったら、蘇らせてもあげられたんだけど……。なんか既に、アンタの中身は生まれ変わった後だったみたいで、手遅れだったのよね。生まれ変わったアンタを探すの、ほんっと苦労したわ……。姉さんと妹たち総動員したんだから」
なんだか良くは解らなかったが……。俺に会うため、随分と骨を折ってくれた……らしい。
「それでね……あのぉ……ね?」
突然、ネルの声音が、こちらの機嫌を窺うようなものに変わる。
「どうかした?」
「……えっとね? アタシも……ひとしきり……すっきりして……その……。お陰で、今……気がついたんだけど……」
ネルがもじもじと、なにやら決まりが悪そうに――俺が以前100均で購入して、ベッド脇に放置したままだった、埃を被った安っぽい鏡を手に取って見せた。
「多分……さっきまでアンタが、アタシのおっぱいを一生懸命吸ってくれていた……せいなんだとは……思うんだけれど……ね」
鏡に映り込んだ自分の顔を目にして──言葉を失う。




