新人バイトのネルさん
「……なんか……身内の不始末の形に、馬車馬のように働かされ……る、可哀想な人の気分を……満喫させられてるんですが……」
長距離を走った際に感じる脇腹の痛みに、厨房の壁に手をついて、荒い息を繰り返していると、店長の無慈悲な怒声が飛んで来た。
そんな激務も気づけば最終日。仕事が忙しいと、時間が経つのも早い早い……。
* * *
ゴミ出しから戻ると、ネルがカーペットに掃除機をかけながら声をかけてきた。返事をする気力も残っていなかった俺は、頭の中だけで お返事。
――結局ネルは。件の、口からでまかせに対して予告通りに「想像妊娠」のカードを切ることで収拾をつけてみせた。
とは言っても。無断欠勤したことを、なんとか丸く収めようと言う、俺たちの身勝手極まる当初の目的は果たせた訳で。これで……良かったの……か?
店長の方も、少し気抜けした表情を見せて、その件に関しては――特に、それ以上の追及をしてくる様子は見せなかった。この人からすれば、そう言ったことにあまり、首を突っ込み過ぎると言うのは、躊躇われたのかも知れない。
16連勤、最終日の営業がようやく終了して、店の片付けをしている最中。コック帽を脱いだ店長が、やって来た。
「春夏秋冬。ネルちゃん。もう良いから着替えて、まかないを食え」
ネルが、嬉し気な声で店長に礼を言う。
16連勤が始まった2日後にコイツは、店長の誘いで一緒にフロアで、働くようになっていた。
ネルのことを留学生と説明をした手前、雇用や給料、税金面など、店に迷惑をかけるのではないかと、不安を覚えたものの――。
「任せておけ。やりようは色々ある」との店長のお言葉に甘える形に。
(……良いんだろうか? 色々と法律違反な気がするんですが?)
そんな俺が抱く、店長に対しての申し訳無さを余所に、お仕着せのギャルソン・エプロンと、チョーカーを鼻歌交じりに外しながら、ネルは更衣室に消えた。




