いつから……お洒落バイトと、勘違いしていた?
「――3番テーブル2名のお客様のオーダー! 1名様はディナーコースB、もう1名様は、根セロリのポタージュ、ガルグイユのサヴァイヨン・ソースを添え、クスクスのブイヤベース仕立て、パヴェット・ステーキ、デザートにタルト・タタンと、ウフ・ア・ラ・ネージュ入りましたぁ。お酒は、お任せしたいそうでーす!」
元々、バイト先をこの店に決めたのは、大学で選択できた第二外国語が、絶賛不人気のフランス語枠しか空いて無かったことによる。
漢字のお陰で、何となく空気が掴めて、単位の取得が容易な中国語は、アッと言う間に定員をオーバーしてしまい「……うち、生徒足んないの……来ない?」と、申し訳無さ気に、お誘い下さった教授の言葉から、済し崩し的にフランス語を履修することに。
そしてバイトを始める際、求人に「フランス語を選択した学生さん優遇」と、項目にあったのを見つけたことが、きっかけのひとつ。
もうひとつは――。
大して汗もかかない小洒落たバイト先で、優雅に働いていればきっと「もてるようになるに違いない」との、不純過ぎる純粋な動機が、あったことが大きい。しるぶぷれ〜@
……今、この場に。あの時の俺が目の前に立っていたなら、ぶっ飛ばしてやりたい。
イメージした労働内容と現実の間には、とんでもない隔たり。バイトを始めるのも初めてだった俺は、飲食業の実体を、まるで理解できていなかった。
『がてん系』『戦場』『3K』職場環境を表わす語には、間違い無く、これを用いれば事足りる。『大した汗もかかない小洒落たバイト先で優雅に働いていれば 』とか? 勘違いも甚だしい。
座る暇どころか、水を飲む暇さえ無い、ハード過ぎる労働環境が、飲食業業界の常……らしかった。
と、言う訳で俺は――。
無断欠勤を謝りに顔を出した、その翌日から。目まぐるしく店内を走り回る、地獄の16連勤をこなす羽目に。
ネルの悪ノリが、全ての原因とは言わないけども――。
 




