ひ、挽肉機?
「春夏秋冬……」
「は、はい」
「お前がコンパだの、なんだのに……現を抜かすのも学生の領分と思って、黙って見逃してやって来たがな」完全に店長のモードが、切り替わっていた。
店内には普段、耳障りにならない しっとりと落ち着いた、フランスの古いポップスのナンバーが、有線で流れていたにもかかわらず。
――今、この厨房を流れているバック・ミュージックには確実に「仁義なき戦い」か、なにかの任侠映画のテーマの類が、流れているような……気がした。
「日本に来て、右も左も分からない……。日本語もおぼつかない状況で、倒れた お前を病院に連絡して下さるような……できた、あの娘さんとの関係を聞いとる……。まさか、ちゃらんぽらんと『遊びで』とか。恥知らずなことは、言わんだろうな……」
「……えぇっと?」なにをどう言い繕ったものかと考えていると、店長は揺るぎない口調で「もしそうなら、お前……頭からミンサーに、ぶち込むからな……しばらくの間……ディナータイムのメニューは、総入れ替えだ」
店長のあまりの凄みに、口をパクパクさせていると、店の方から店長を呼ぶ、ネルの呑気な声。
「……話は、ひとまず置いといてやる」
それだけを言い残すと店長は、厨房から顔を出して、ネルに要件を聞きに行った。
厨房の奥を見ると、清潔に洗浄はされてはいたが、使い込まれたミンサーが視界に飛び込んで来る。
(……やる。この店長なら、本当に……やりかねん)
別にネルとの関係について、やましいことなど無かった。
『あちら』の世界の事ではあるけれども。なにせ、かれこれ20年近く一緒に暮らして来た仲な訳だ。
問題は店長を、どう納得させるかに尽きた。




