ボディチェック
食事を終えると、すぐにでも横になりたかったが、ひとつしか無いベッドで、一緒に眠るネルのことを考えると、水浴びに行かざるを得なかった。
……と、言うか。
身体も洗わずに眠るなど、日本に生まれた現代人としては、許容し難い。
これは現代人としての、アイデンティティーを護る、最後の砦。
いや、単なる習慣なだけでして。ハイ。
泉に辿り着くと花さんと小太郎が、こんな時間帯にもかかわらず、先客として水遊びにやって来ていた。成長した小太郎は、初めて出会った時の面影は無く、立派過ぎる成獣に。
「また、お前のかーちゃんに襲われたら……護ってくれよ?」
泉のほとりで、いつものように身体を洗う。遊んで欲しいと、鼻を鳴らして――すり寄って来る小太郎を押しやり、ナアス蠅に刺され続けた、全身をチェック。
あいも変わらず身体には、刺された跡どころか、僅かな赤みすら残ってはいなかった。
(『死体蠅』の意味だとか言ってたよな。ツォンカパの奴……)
詳しい訳では無かったが……なんらかの機会に蜂の針は、産卵管が変化したものだという話を、聞いた覚えがあった。全身に変化は無いかと、神経質なほど確認する。
もっとも、あれは「蠅」であって「蜂」では無い訳だが……。
「心配しなくても大丈夫よ?」背後からネルの声。
手に海綿を持っているところを見ると、背中を流しに来てくれたのか――「のぞきに来ちゃった♪」優しい気遣いに、気を良くしかけたが、肩透かし。
「ナアス蠅に刺されて、気になってるみたいだけど、問題無いわよ? アタシの力で、治したんだから。体内に卵でも植え付けられていたとしても、異物として押し出されるわ」
 




