長い……夜でした。
ツォンカパの口から、熊かワーグを思わせる咆哮が吐き出される。
軌跡が弧を描く――と言うよりは、弧の残像のみを視界に置き去りに。
同時に組み付かれたワーグの長は、ツォンカパに反るように投げられ。頭から地面に叩きつけられ「ボグッ」と鈍い音を辺りに響き渡らせると、前後の足を激しくばたつかせて――動かなくなってしまった。首か、背中の骨が折れたのかも知れない。
「ス、ス、スープレック……ス?」
ワーグの長が確実に死んだことを、確認するまでツォンカパは、そのままだった。
やがて組み付いた腕の感触から、死を読み取ったツォンカパは――ゆっくりと組んだ腕を解いて、立ち上がると雄叫びを上げた。
周りの全てが瞠目する、勝鬨の声。
それを耳目にした、残されたワーグたちは――次々に戦意を喪失し、そしてその隙を見逃さなかったオークたちに、1頭も残さず狩られていった。
長い夜が、ようやく終ることを告げるように、光るボトルは、右手の指輪に吸い込まれ――消えていった。
* * *
ワーグたちを撃退することができたのは、喜ばしかったが、いつまでも余韻に浸っている暇など無かった。
俺は、皆の傷をボトルで癒したあとで、すぐにワーグの首からぶら提げられている、匂い袋を集めさせた。何名かのオークにそれを持たせて足元で、まだ這い回り続けていたナアス蠅を、念のために松明で焼き殺させて回る。
その作業が終わった後、残りは総出で村の消火にあたって貰うつもりだった――のだが? 血の気の多いオークたちは半分も残ってはくれず、用心のためなのか、手に手に武具を携えて、どこかに出かけて行ってしまった。