狸寝入りすんな
「……えぇっと。こ……これは、そんなんじゃ無いんだなぁ……っ……」
慌てて、後ろ手にボトルを隠してみせたものの。そんなことで、誤魔化されてくれる訳も無く……。よりワーグの長の怒りに、油を注ぐ形に。
「……バカニ……シテイルノカ……」
「いやいやいや……馬鹿にだなんて。いやいやいや、そんなそんな……」
怒りに震えるワーグの長の迫力に、引き攣った愛想笑いを浮かべて、あとずさる。
(……どうしよう。ヤバイ! ……超ヤバイ!!)
辺りをそれとなく、探ってみるが 武器に使えそうな物は、なにひとつ無さそう。
あったところで、まぁ、……気休めにもならなかったかも知れないが……。
「……カリノ……ナラワシノ……ママニ……キサマカラ……カル……ベキ……ダッタ……」言うを待たずに、ワーグの長は牙を剝いて襲い掛かって来た(し、死んだっ?!)
恐怖に目をかたく閉ざして うずくまる。
――が、いつまで経っても、ワーグの牙が、俺の身体に食い込むことはなかった(……?)
恐る恐る目を開くと、今まさに俺を噛み殺そうと、襲い掛かって来たワーグの胴体に、両腕をがっしり回して組み付く、ツォンカパの格闘するさまが飛び込んで来た。
「遅ぇぞ! マジで死ぬかと思ったぞ! ツォンカパ!! 狸寝入りなら先に言え!」
無事に済んだ安心感と、ツォンカパが無事目覚めた安堵から悪態を放つ。
ツォンカパは、そんな俺の声に答えもせず――ただ口の端を歪めて笑みを浮かべ、ワーグの胴を締め上げていた。太い二の腕に血管が浮き上がり、ワーグが子犬の様な悲鳴を上げる。
「ぬうぅ……っ!!」
一層の力を振り絞るツォンカパの締め上げを振りほどこうと、足搔き続けるワーグ。けれど身体が浮き始めた獣に成す術は無かった。