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CASE2:カーラ/たまには文字で

 午前の営業が終わり、お昼休みだ。カーラが「簡単なものだけど」と言っておにぎりとウインナー、卵焼きを出してくれた。ありがたくいただく。


 あれから客足の伸びは順調に伸びていたが、しばらくすると止まった。今は日に30組くればいい方といったところだ。カーラのキャパシティを考えても、それくらいがちょうどいいだろう。対応できないくらい増えて接客の質が落ちてもいけない。


 一方で売り上げは伸び続けている。ひとまず安心だ。今後の方針については、カーラ次第ではあるが『小型武器と作業用ナイフの専門店』路線の方が口コミは広がりやすいだろう。わかりやすいのが一番だからな。


 まぁそうじゃなくても美人店主がいる店として広がっていくだろうから、あまり心配はしていない。


「お茶、おかわりいる?」


「ああ、頼む」


 おにぎりをちまちま食べていたカーラに声をかけられる。頰にお米粒が付いている。


 微笑ましくてつい眺めていると、カーラはそんな俺の視線に気づいたようだ。恥ずかしそうにお米粒を指でとりながら「言ってよ」と視線で抗議している。


「……てかさ、クラーク。あれ、どうすんの?」


「あれ?」


「……最初に言ってたでしょ。よ、嫁がどうこうって」


 顔を赤くし、湯呑みを口につけるカーラ。一方俺は、ついにこの時が来たか、と覚悟を決めるのであった。


「……あれか……」


 お昼を食べ終わり、お茶を飲んでいたくつろぎ空間に突如として爆弾が落とされた。カーラはくすんだ赤い髪をいじりながら、こちらとは目を合わせない。


「……」


「……」


 お互い無言になったが、先に切り出したのはカーラだった。


「……無理だからね、いきなりは」


 いきなり振られてしまった。


「でも、こ、恋人からなら……その、考えてもーー」


「……すまない。もう、君をそういう目では見れない」


 そう言った瞬間、カーラの細い肩が小さく震えた。


「…………そ……そっ、か。嫌いになっちゃった? 私のこと。態度、わ、悪かったもんね」


 涙声のカーラ、なんともいじらしい。だが違う、違うんだカーラ。意を決し、気持ちを伝える。


「いや! 決してそんなことはない。ただ……君はもう……妹にしか、見えないんだ……」


 カーラの動きが、ピタッ、と止まった。また沈黙が訪れる。カーラの表情は、こちらからは見えない。時計の音がやたらと大きく聞こえた。


「……は? なにそれ、意味わかんないし」


「すまない……」


 返す言葉がない。カーラははぁ、と大きくため息をついた。


「……じゃ、もう用はないでしょ。さっさと帰ったら……」


 そう言ってカーラはすっと立ち上がり、店の奥に入っていってしまった。何か声をかけようとしたが、思いつかない。最後までどんな顔なのかは見えなかった。シン、と静まり返った店内に1人残される。


 ……すまないカーラ。心の中でもう一度謝る。


 最後に店内を見渡し、立ち上がって玄関を出ようとした時、後ろから足音が近づいてきた。振り返ろうとしたが、そのまま背中をドンッと押されて店の外に出されてしまった。体勢を崩しつつ、なんとか転ばずに済んだ。


「ふんっ、お返し!」


 振り返ると、カーラが仁王立ちしていた。涙で潤んだ青い目で睨んでいる。カーラは拳で涙をぐいっと拭った。その動作が男らしくて、少し笑ってしまった。


「カーラ、楽しかったよ。ありがとう。そしてよく頑張ってくれたな。こんなことになって、すまないな」


 そう告げてから少しの間、無言の時間が続いた。やはり、先に口を開いたのはカーラだった。呆れたようにはー、と息を吐き、


「……まっ、お店も儲かったし……しょうがないから、許してあげる……はいこれ」


 そう言ってカーラはスタスタとこちらに近づき、グイッと何かを手渡した。見ると、商品の包装用の木箱だ。用意はしたものの、あまり使う機会がないと前に話していたな。


 意図を推し量っていると、俺の言葉を待たず、カーラはくるりと踵を返した。


「カーラ、これは……」


 背を向けた彼女に声をかけるが、返事はない。玄関のところで歩いたところでピタリと足を止め、


「……知らない。ばーかっ」


 肩越しにベーっと小さな舌を出したあと、カーラはほんの一瞬微笑み、店の中に戻っていった。しばし呆気にとられる。


 さっそくもらった箱を開けると、中には綺麗なナイフが入っていた。握ってみる。サイズもちょうどよく手に馴染む。やはり彼女は腕がいい。


「ん?」


 箱の底の方を見ると、半分に折られた手紙が入っていた。几帳面そうな折り目だ。手にとって開くと、中には『ありがと』とだけ書いてある。丸っこい、カーラの字だ。字は見られたくないと前に言っていたのにな。さっき奥に入った時に急いで書いたんだろうか。その場面を想像し、頰が緩む。


「じゃあな、カーラ。また会おう!」


 そう告げて店を後にした。春の風が吹き、俺の前髪を揺らす。周りを見ると、店を囲うように春花が咲き乱れている。空は綺麗に晴れていて、出掛けたくなる天気だ。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ハーレム計画は今回も失敗に終わってしまった。だが、俺はたった2回の失敗で懲りるような男ではない。また新たな標的を定め、進むだけだ。

《参考出典》

・佐藤義典(2008)『白いネコは何をくれた?』

・パコ・アンダーヒル(2001)『なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学』

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