CASE6:ルイーザ/別れの宴は華やかに
【前回までのあらすじ】
オットーと協力し、街の有力者と話をつけ終えたルイーザ。
屋台の設営を任せたアントンもつつがなく仕事を進めてくれているようだった。
メンバーへの態度について改めて自省したルイーザは、その反省を胸に、チーム全体の戦力強化のための鍛錬を行うのであった。
そして、ようやく体調の回復したクラークに報告へ行くことにした。
それから3日経った。屋台などの設営は思いの外早く終わった。これもひとえにティフィンさんやニコラさんといった有力者が手を貸してくれたおかげだろう。
ニコラさんはオットーのことをとても気に入ったようで、街で会うたびに「いつ飲みにくんだよ」と絡まれている。
そして、クラークさんの体調もようやく回復したため、倒れていた間の進捗報告に行くことにした。
「そうだったか! 万事上手くいっているようでなによりだ」
「オットーが頑張ってくれました。ハンナもアントンもイエルクも、そのおかげです」
「……ふふ、そうか。集客の方もしっかり行商人たちに根回しできているようだし、あとは進捗を見守りつつ、メンバーたちの実力の底上げを行っていこう」
クラークさん、嬉しそう。すっかり顔色も良くなってる。
「はい。ここに来るお客さんが増えれば、その分仕事の機会も増えるでしょうし」
「その通りだ。その時に備えておかなくてはな。だがまぁ、もうしばらくは時間がかかりそうだから、焦らなくてもいい」
実際、行商人や仕入れの業者に話をした時も同じことを言っていた。緊急の要件ならともかく、こういったことには少し時間がかかるみたい。
「……さて、ということはだ。約束の『《アードラー》を二週間で大人気傭兵団にする』は果たせないことになるな」
「そうですね。まだまだこれからでしょうね、でも感謝してまーー」
「そうか! 感謝してくれているか、それならば最後に一つ、俺の願いを聞いてもらおうか!」
突然大声で話し始めたクラークさん。
……まさか、ハーレムがどうのこうのとまた言い出すつもりだろうか。
「い、言っておきますけど、ダメですからね。感謝はしてます、してますけれど、約束は果たせませんでしたし」
「ま、まぁそうなんだけど……しかし」
「それに! そもそもそんな貴族の道楽、下品です!」
一夫多妻の夫婦がいないわけではないけれど、一般的ではないことはたしかだ。一部のアホな貴族くらいしか聞くことはない。
「えぇっ! みんなやってるだろ。貴族関係なく」
「なっ、何を言っているんですかあなたは! そんな訳がないでしょう、ふしだらな!」
見損なった。せっかく良いところもあると思えてきたのに。感謝もしていたのに。
結局、この人の目的は下卑た欲望を満たすことだったんだ。
「ふしだらなの……? し、しかしルイーザ、せっかくだし最後にみんなで」
「み、みんなで?! あなたは一体何を、なんて不潔な……せめて一人に絞るべきでしょう! 異常です。普通じゃありません!!」
信じられない。みんなで、なんて……ハンナやオットーまで巻き込むつもりだ。こんな男に、あの子達を好き勝手させるわけにはいかない。
「い、いやでも本人達に聞いてみないとわからないだろ? とりあえずオットーに聞いてみようぜ、あいつノリいいし、オッケーしてくれると思うんだけどな」
クラークさんは諦めない。最初の時も思ったけれど、どうしてこんなに食い下がるのか。
「……そんなわけがないでしょう。オットーをなんだと思っているんですか」
「待て待て、実はこの街に来たときにオットーには軽く話してあってな『それ絶対やりたいです!』って言ってたんだよ」
「まさか……」
目眩がする。彼がそんな子だったなんて。
「聞けば、ルイーザ、本当は君も結構好きなんだって? みんなに隠してるけどバレバレだーって言ってたぞ」
ケタケタ笑っているクラークさん、一体、一体何が起こっているの……。
彼にそんなふうに思われていたなんて……。
思考が……思考がまとまらない。
気付けば、惨めさと情けなさとで涙を流していた。
「……ル、ルイーザ?! どうした?!」
◇◆◇◆◇◆◇
「……打ち上げのことなら最初からそう言ってくださいよ」
「すまん」
とんでもない誤解をしてしまった。それにしても、お酒好きがオットーにバレていたとは、それはそれでショックだ。
「あ……そういえば、最後ってさっき言ってましたね?」
「ああ、本当ならもう少し進捗を見守りたかったんだが、この通り」
クラークさんは懐から手紙を取り出した。ずいぶん質のいい紙のようで、おもて面には家紋が記されている。
「プレミヨンの方でトラブルがあったみたいでな、戻らないといけなくなった」
「そう、なんですか……」
「なに、ここまでくればあとは君達だけでやれるさ。というか、ここ三日間はもうやっていたしな。もし何かあれば手紙をくれ」
「わかりました。みんなはこのことを?」
「まだ話してない。手紙はさっきもらったばかりだ」
クラークさん抜きで本当にやっていけるだろうかと、一瞬不安がよぎったが、オットーの頼もしい姿を思い出して鎮めた。
「さぁ、じゃあさっそく準備に取り掛かろうか!」
病み上がりだというのに元気な人だ。
それにしても打ち上げかーー。《湖と灯の街》に来てからずっとお酒は味わいたかったけれど……。
あまりみんなとお酒を飲むことはなかったし、そもそも騎士団時代からお酒は好きだけれど宴会は好きではなかった。
お酒が入るとみんな遠慮がなくなって、仲のいい人達とばかり話すようになるからだ。
いけない、また考え込んでる。この街のお酒は美味しいっていうし、端の方で独りで楽しんでいれば大丈夫。大丈夫。
……大丈夫。
◇◆◇クラークside◇◆◇
打ち上げは屋台の集まる広場、街に上がる石階段のすぐ脇で行うことにした。
屋台はまだ三、四つしか仕上がっておらず、客もまばらだ。
「さて、みんな集まったな」
だが、だからこそ気兼ねなくはしゃげるってもんだ。
「ほ、ほんとにクラークさん帰っちゃうんですか!?」
「せっかく私が看病してあげたのに、恩知らずですよ〜!」
オットーとハンナは不服そうだ。特にハンナはずっと看病してくれていたから、不満に思うの最もかもしれない。罪悪感。
「すまんすまん。トラブルが起こったみたいで、しょうがないんだ」
アントンとイエルクが人数分の飲み物をかかえてやってきた。
「まぁよく考えれば領主サマがいつまでも俺らに構ってるわけにはいかないよな」
「本当だったらもっとここにいるつもりだったんだがな……あ、それ俺だ」
「仕方ねーよ。別に今生の別れってわけでもないだろうしよ。その分今日はパーッとやろうや! ……ハンナ、これお前のだろ?」
グラスを回すアントンの目が輝いている。
「……あ、でもクラークさんはお酒飲めないんですよね……あ、それ僕です」
「ああ、極限に弱いからな。なに、いつも酔っ払っているようなもんだから平気さ!」
「そりゃ初対面の誘拐犯相手に『ハーレムに入れ』って言えるくらいだもんな……っと、そっち回してくれ」
「あれにはびっくりしましたねー……女の敵ですよ、敵」
「全くです」
全員にグラスが回ったようだ。俺は飲めないからジュースだがな。
「……じゃあ音頭を、オットー」
「ええっ、僕……よし、やらせていただきます!」
そう言って立ち上がるオットー。ルイーザからの無茶振りをモノともしない、成長したな。
「コホン……えー、この二週間の間と時間を共にした仲間・クラークさんとは今日でお別れです。たくさんのものをくれた恩人であるクラークさんを楽しく送り出せるよう、盛り上がっていきましょう! カンパーイ!!」
オットーに続き、全員がグラスを高く掲げた。
ルイーザとイエルクは控えめに少しグラスを持ち上げただけだが。
「……美味いっ!」
「アントン早いですね、僕もーー!」
アントンとオットーは早々にグラスを干して屋台の方へ走って行った。旨そうに飲むなぁ。
ハンナはチビチビとハチミツ酒を口にしている。両手でグラスを持つ仕草が可愛らしい。
対して、ルイーザはというと……おぉう。いつのまにか三杯目のグラスを干しかけている。
「ずいぶんペースが早いな、ルイーザ」
「わ、悪いですか」
感心して言ったんだが、恥ずかしそうにグラスを置く彼女。その様子を見たイエルクは静かに微笑んでいる。
「クラークさん、そっちのサラダのお皿取ってもらえますか?」
色とりどりの野菜の積まれた大皿を指差すハンナ。
「いや、皿をくれ。俺がよそおう」
「わぁ! ありがとうございます!」
両手で持った木製の取り皿を笑顔で差し出すハンナ。その様子を見てルイーザが眉をひそめる。
「もう! ハンナ、自分でやりなさい! すみませんクラークさん」
「えー別にいいじゃないですかぁ」
「そうだそうだ。酒の席では無礼講、気にするな!」
何か言おうとするルイーザの隙をついて取り皿をひったくり、サラダを盛り付けて返した。
「いいから食え。美味いぞ」
クラーク・ブラッドフォード史上最高のキメ顔だった。しかしルイーザは申し訳なさそうに体を小さくして言った。
「……あ、あの……トマト食べられない」
それを見たハンナが吹き出す。一気に顔が熱くなるのを感じた。
ルイーザに謝り、トングでトマトを取り出す。
「ぷっ……クラークさんカッコ悪〜」
「くっ……」
「す、す、すみません!」
ハンナめ、看病してもらった恩があるから何も言えない……!
そうこうしている間にオットーとアントンが酒と料理を持って帰って来た。
そうだ、忘れないうちにあれをやっておかないと。
「みんな、食べながら聞いてくれ。明日の朝には俺はプレミヨンに向けてここを立つから、今のうちに今までの振り返りをしたいんだ」
「はいはい、はーい! 飲みながらでもいいですかー?」
「もちろんオッケーだ」
「なら付き合いまーす!」
「やりましょう!」
さて、最後の振り返りを始めよう。
ブクマが42になりました。嬉しいですねぇ。
ブクマしてくれている人が一人でもいる限り、絶対にエタらせませんが、それでもブクマをしてくれる人がいると気合が入りますね。ありがとうございます。




