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CASE2:カーラ/数字は苦手?

 さて、今日は客入りを調べ、問題点を洗い出そう。


 朝からカーラは木目の綺麗なカウンターでつまらなそうに雑誌を読んでいる。あれは、王都の新聞社が出しているゴシップ系の雑誌だな。


 最後に《エウシ》が現れた《暗い季節》が終わってかなり経つ。こういうものが流行るのは平和な証拠なのだろう。


 客は全く来る兆しがない。しかし、呼び込みもしようとしないとは、まぁそういうのもありといえばありではあるが、この投げやりな姿勢は少し問題だな……。


 ナンシーはその点優秀だったなぁ。と思った自分を諌める。他人と比べるなんて、一番相手のモチベーションを下げる行いだ。クラークのバカっ!愚か者、筆舌に尽くしがたい痴れ者だ貴様は恥を知れ。全く。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 結局、この日に来たお客様は4人だけだった。これはまずい、極めてまずい。ゼロに何をかけてもゼロなように。そもそもお客様が来ないのではどうしようもない。が、そんなことに怯む俺でもない。さっそくミーティングだ。


「カーラ、このあと30分くらい今日の振り返りをしよう。率直に思ったことを話し合って、明日の作戦を立てよう」


「え〜……」


 唇を尖らせてわかりやすくぶーたれている。普段とのギャップがあって大変可愛らしい。


「どうしても嫌なら強制はしない。だが、この店の売り上げを伸ばすためには必要なことだ」


 そういうとカーラの表情が少し真剣になった。


「……わかった。てか、私の店だし」


「よし、ではさっそく始めよう……と言いたいところだが、調べたい数字があるから少し待っていてくれ。1時間くらいで戻る」


「りょーかい」


 さて、今回の作戦に必要な数字がまとまっている場所があればいいが、なければ足で調べるしかないな。インターネットがあればな、と一瞬思ったが、無い物ねだりをしてもしょうがない。それに、ないからこそやりやすいこともたくさんある。弱みは強み、受け入れてやっていくしかない。


 ◇◆◇◆◇◆◇



 1時間後、店に戻った。

 さっそくカーラと作戦会議を始める。


「よし、カーラ、まずは今日1日お疲れ様」


「別に疲れてないよ、ほとんど人こないし」


 何かいうたびに噛み付かれる。じゃれている子猫のようなものだ思えば悪い気はしない。俺は猫アレルギーだけど。


「さて、まずはこのお店はどちらかというと高級品が多いという認識で合ってるかな?」


「そうだよ、先代からの方針だからね。良いものじゃないと命が守れないからって」


「素晴らしい。先代にも是非ご挨拶したかったものだ」


 カーラは満足そうに小さく鼻を鳴らしたが、すぐに照れたように前髪をいじり始めた。愛い奴め。


「結論から言おう。その方針はそのままに、だが先代の商品ではなく、君の作った商品を目立つところに置くようにしよう。それだけで売れ行きは二倍になる」


「は、はぁ? ……それだけで?」


「あてようか、先代が作った大振りな剣、最近は前ほど売れていないはずだ」


「な、なんでそれを……って、店の中漁ったの!?」


「違う、ただの予想だ。あれから調べたところ、君の言うように、魔物の増加に伴って冒険者の数は増えているようだ。特に、最近は女性の冒険者が増えている。だから大ぶりな武器は売れにくい。ただそれだけだよ」


暗い季節は、特需景気を引き起こし、武器屋や傭兵家業、建設、保険、それ以外にも数え切れないほどの業界に大きな影響を及ぼす。


「たしかに最近は女の子も増えたけど、それでも男の冒険者の方が多いはずだよ!」


 カーラの言う通りだ。依然として男性の方が絶対数は多い。


「その通りだ。だが、熟達した戦士ほど剣は馴染みのものを使う。その点、新規参入してきたビギナーは手に馴染むものを探している。そして、現在は女性の新規参入が大幅に増えている。だからそっちにフォーカスして攻めていくべきだと俺は思う。要は伸び代があるということだな」


「……まあ、そうかもだけど」


「ちなみに、女性冒険者が増えたというのは隣町の宿屋街で実際に数字を突き合わせて調べたから、間違いはないと思う。気になるならこのまとめた資料も……」


「い、いらない!見てもよくわかんないし……」


 苦手分野になると途端にしおらしくなる。ギャップが素晴らしい。いつもは胸を張って堂々としているが、今は両肩を寄せてしょんぼりしている。鎖骨から胸にかけての曲線が女性らしい。


「数字が苦手なら、ひとまず三つだけ意識してくれ。


 ・店に来たお客様の数

 ・商品を買った人の数

 ・買った商品の金額


 他はおいおいでいい」


「はーい」


 ピーマンを食卓に出された子供のような表情だ。なんだかこの子も娘に……はっ、いかんいかん。今はそういう時間ではない。


「要は、まず店に来た人の購買数を上げようということだ」


「でも、そもそも来る人を増やした方がいいんじゃないの? 知らないけど」


 カーラは自信がなさそうに恐る恐る意見を出す。苦手な話だろうに、自分の店だからという矜持があるのだな。うむ、良いことだ。


「それももちろん正解だ。だが、せっかくお店に来る人を増やしたとしても、満足してもらえなければ意味がない。俺はそう思う」


「そっ……か、そうだよね。今日来てくれた、たった4人だったけど。わざわざこんな遠くまで来てくれたんだもんね。わかったよ」


 少しだけ微笑んでそう答えるカーラ。良い答えだ。この子は伸びるかもしれない。


 さて、とはいえ陳列のやり方を変えるだけでは十分とは言えない。冒険初心者に寄り添う接客が必要だ。そのやり方は明日の朝にでも教えるとしよう。カーラなら、すぐにでもできるようになるはずだ。

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