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CASE6:ルイーザ/考えよう。答はある。

【前回までのあらすじ】


街を襲った魔物は、巨大な蕾に翼を生やしたような姿をしていたらしい。


そして、誰も歯が立たない怪物を討伐したのは、たった1人の剣士だったというーー。


街の復興のためのプランの共有が終わり、スーズの案内で街を見回ったクラークたちは、その足で街の有力者に会いに行った。


権力者は、一見すると温和な老女だったが……。

 テーブルのこちら側にはオットー、俺、ハンナ、ルイーザの順で座っている。


 まず、簡単な自己紹介を済ませた。ティフィンさんはこの街には30年以上住んでいるらしい。そして、以前プレミヨンに来たことがあるらしく、その話で少し盛り上がった。


 俺が領主だと話すと驚いていたが、同時にこんなところにいて良いのかと心配されてしまった。それを言われると、多少思うところはあるのが本音ではある。一応、家族に手紙は出したが……。


「それで、あなたが考えた復興案っていうのは?」


「はい。やはりこの街の強みを活かすべく、観光客を呼び戻そうと思っています。それも、早急に。とにかく今は資金がなく、帝都からの援助もいつになるかわかりませんから」


「その通りね。時間が経てば経つほど悪いイメージの方が定着してしまうでしょうしね。それで、どうやって呼び戻すの?」


「今の街の状況を逆手に取ります。復興途中の街をウリにして、観光客に呼びかけます。今しか見れないムワンダの姿だと」


「……言いたいことはわかるけれど、崩れた建物を見ながらお酒を飲みたい人がいるのでしょうか」


 ティフィンさんは微笑みを崩さないままだ。左右に座る《アードラー》の緊張が高まるのを感じた。


「たしかに、そういう言い方をしてしまえばいないでしょう。しかし、観光を通してこの街の歴史をなぞれると表現すれば、興味を持ってもらえると思います」


「歴史、どういうこと?」


 俺の言葉に、唇の端を持ち上げて切り返すティフィンさん。俺がどんな反応をするか楽しんでいるようだ。格上相手にビビったら負けだ。平静を装い、胸を借りるつもりで挑む。


「この街の成立当初、この場所での建築技術は確立されておらず、ほとんどの店が野外販売、いわゆる屋台ばかりだったと聞いています。それから、半屋内のような場所ができ、今の形になったと」


「スーズから聞いたの? フフ、懐かしい。私が街に来た頃は、まだ屋台もチラホラあったけど、いまはすっかり見かけなくなったね……」


 懐かしむように目を細め、机の上に視線を落とす彼女。やがて、テーブルに置いた手に視線を移し、「フフ、もうしわくちゃね」と言って笑った。


「……ごめんなさい。懐かしいって、厄介ね。続けて」


「いえ、お気持ちはわかりますよ。まだ、若造ですけどね……。話を戻します。要は、《湖と灯の街》の出発点である、屋台が並ぶ観光街の復活というテーマで集客する、ということです」


「そういうことね。でも、屋台なんてもう残っていないんじゃない?」


「おっしゃる通りです。スーズにも聞いてみましたが、やはりもう残っていないようですね。しかし、作り方はそれほど難しくありません。すぐに用意できます」


「たしかに、作るのはそれほど難しくないけれど、材料はどうするの? 今は、お店を直すための資材も足りていない状況よ」


「材料は今回の被害で出た廃材を使おうと思っています。残飯に比べて、木材なんかの処理は気を遣いますから、ましてこの場所だとなおらさ、ですよね?」


「そうね。昔は湖に捨てる人がたくさんいたみたい。それで、水が引いた昼間にひどい見栄えになったから禁止になったの。観光地だものね。今は湖の外まで運んでから処分しているわ」


「そう、だからそのまま使いまわします。街を見て回って、かなりの廃材が出ていると確認しましたから、十分な量だと見込んでいます」


 ティフィンさんはほんの一瞬だけ嬉しそうな顔を見せたが、すぐに収めて話を続けた。


「……もしそれが評判になってお客さんが増えたとしたら、復興が進むかもしれない。けれど、もしそうなったら、せっかく作った屋台はどうするの?」


「活用します。まず、復興のために呼んだ技術者たちに、湖のほとりの開発に着手してもらい、簡単なものでいいので、集合住宅を建設。次に、外部から出店業者を募り、集まった彼らに屋台をレンタルします。そうすれば、彼らも設備投資なしで開業ができますし、両者にメリットがあるスキームを用意できます」


「……フフッ」


「まだ細かい点は詰めきれていませんが、大枠はこんな形です。……いかがでしょうか」


「……今のムワンダしか知らない料理人の中には、屋台で仕事なんて、って文句を言う人がいるかもしれない。その人たちはどうやって動かすつもり?」


「……そこは、街の最古参であるあなたの力を借していただきたい。いきなりやってきた若造が何を言っても、聞いてもらえないでしょうから。もちろん、このプランに魅力を感じてもらえたなら、ですが」


「ふぅん、具体的には、何をすればいいの?」


「4、5人でいい。協力してくれる料理人を紹介してほしい。まずは小規模な実験という形で実施し、数字で結果を出します。その後に、その数字を使って協力者を増やしていきます」


「…………最後に一つだけ、何故ここまでするのか、これを成功させたら、あなたは何が手に入るのか、聞いてもいい?」


「なぜ、ですか」


「そう。動機が見えない相手なんて、信用できないでしょう」


 来たか……。できれば答えたくない質問だが、正直に答えよう。


「そうですね……二つあります。一つ目は、この、《アードラー》を街専属の傭兵団にしてもらうという約束のため」


「あなたたち傭兵団だったのね、にしてはずいぶん可愛らしい雰囲気だけれど……フフッ、ごめんなさい。もう一つは?」


 テーブルの上で指を組み、その上に顎を乗せて楽しげなティフィンさん。可愛らしいという言葉に喜ぶハンナ、複雑そうなオットー、落ち込むルイーザ。


「…………耳を貸していただけますか?実はーーでして」


「……! フフッ、そうなの。フフ、フフフッ……よぉくわかりました」


「……お恥ずかしい」


「優しい理由じゃないの。恥ずかしがることないわ」


 優しく笑うティフィンさんと、興味津々な様子のオットーとハンナ。ルイーザは先ほどの可愛らしいという言葉にまだ落ち込んでいて、それどころじゃないようだ。


「え、なんなんですかそれ」


「……いつか話す」


「えー! 今聞きたいですー!」


 左右の若者二人が騒がしい。その様子を見たティフィンさんが諭すように問いかける。


「あなたたち、口の硬い大人に聞きたいことがある時、どうしたらいいと思う?」


 少し考え込んで、オットーは「お金を積む」ハンナは「色仕掛け!」と答えた。思いのほか汚れた回答だった。


「フフッ、それも正解だけどね、1番いいのはーーお酒をたくさん飲ませることよ」

 

「ティフィンさん変なこと教えないでぇ……」


「フフ……ごめんなさい。話が逸れたけど、さっきの案、いいわ。手伝いましょう。でも一つだけダメな点があったと思うの」


「なんと、一体どこでしょうか?」


「小規模な実験でスタートするから、4、5人だけってところ。リスクマネジメントは結構だけど、もしその人数のキャパを超えるお客さんが来た時、フォローが手薄になっては意味がないでしょう。やるなら徹底的にやりましょう」


「で、ですがそれでは」


「きっと大丈夫だから、ね? 1番大切なことは、この街に来てくれた人をガッカリさせないこと。屋台がウリの街に来て、並んでる屋台がそれだけなんて、ガッカリよ」


「確かに、その通りかもしれませんね……」

 

 茶目っ気たっぷりの仕草でそう言われ、やはりベテランには敵わないなと、心の中で白旗を揚げた。


「そうでしょ? とりあえずみんなにはうまく話しておくから」


 メインの話がまとまったところで、街の人たちへの根回しと、《アードラー》についてと、彼らが担う役割について説明した。


 それなら、突っ込んだ質問は特に来なかった。どうやら、さっきは俺を試すために質問攻めにしていたようだ。見た目に似合わず恐ろしい人だ。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 店を出ると、もうすっかり夕方で、ほとんど日は沈みかけていた。


「これ、次は僕らがやるんですよね……?」


「絶対ムリですよ〜!」


「や、やってもないのにムリって言わない! やってみないとわからないでしょう! だいたいあなた達2人はーー」


 二人を叱りつけるルイーザ。このままだとまた爆発しそうな雰囲気だ。


「まぁまぁ! 確かに今回はちょっと難しいように見えたかもしれないが、次に行くところにはティフィンさんの名前を出せば態度も柔らかくなるだろうし、さっきみたいなことにはもうならないさ」


「ほんとうかなぁ……」


 ハンナが不安そうに呟き、俯いている。一方、オットーは抗議するのを諦めて、さっき取ったメモをせっせと見返し始めている。


「メモ取ってたのか、偉いな」


「そ、そんな。僕は頭が良くないので、だから忘れないようにってだけですよ」


「そんなことはない。オットー、まだ付き合いは浅いが、君の頭が良くないなんて、俺は思ったこともないよ」


 褒められ慣れていないのか、困ったように笑うオットー。


「なぁ、良かったらそのメモ、俺たちにも共有してくれないか?」


「い、いやいや! こんなのほんと、ただのメモ書きですし、役に立たないですよ!」


「嫌ならムリにとは言わないが、もし気が向いたら頼むよ。こういう一つ一つが、全体のレベルアップにつながるからな」


 俺の言葉に、オットーは納得したそぶりは見せたものの、実際に見せるのはまだ躊躇しているようだ。気持ちはわかるから、無理強いはよそう。


 まだみんな頭の中を整理できていないし、何より歩き通しで疲れてしまったから、次の商談は明日に回そうとみんなに提案。ルイーザは一瞬だけ反対したが、疲れた様子のオットーとハンナに気付き、折れてくれた。


 そんなことより、もっと大切なことがある。せっかくこの街に来たんだ。絶対に見逃したくない。


「……よし、そろそろ行こうか。早く行かないといい場所が取れないらしいからな」


「どこへ行くんですか?」


「そろそろこの木々が『吐き出す』時間になる。それを見に行こう。いい場所をスーズから聞いておいたんだ」


「クラークさん、わくわくですね」


 俺の様子を見て、ハンナがクスクスと笑う。


「ああ、わくわくクラークさんさ、早く行こう!」


「あ、でも私は一度宿に行って荷物を置いてきますね」


「では、私もそうします」


「そうか。なるべく早く戻ってきてくれ。せっかくだからな、せっかくだからな」


 女性陣は荷物が多いから、無理もないが……クールな態度だ。


「ではオットー! 俺たちだけでも先に行くとしよう。アントンとイエルクともそこで合流する予定だしな」


「はい!」


 この見渡す限りのだだっ広い湖、今はおよそ半分は干上がって茶色い地面が広がっている。これが全て水の下に沈むなんて、考えただけで興奮が止まらない。


「……クラークさん、走りませんか。僕、絶対見逃したくなくて」


「よっしゃ! 俺も同じ気持ちだ。走ろうぜ!」


「ありがとうございます!」


 ノリのいい後輩って、いいよな! 2人、夕暮れの街をドタバタと走り出した。木の上に固定された木製の足場はビクともしない。危なそうなところにはしっかり手すりも備え付けられている。酔っ払いが落ちると危ないものな。


 目的の場所はもうすぐだが、日入りまでも時間がない。急がなくては。

ブクマ数が、なんと28になりました。顧客のところへ向かうときにそれに気付いたせいで、商談中にずっとニヤケておりました。


すごく幸せです。ありがとうございます。

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