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CASE6:ルイーザ/変われるって、ドギマギ

 今は馬車の中で、全員に《アードラー》が目指す『人の役に立てる人、組織』像を共有した。まだまだざっくりしていることもあり、アントンとイエルクはあまりピンときていないようだったが、オットーとハンナは「それいいですね!」と喜んでいた。


 しかし、それを見たルイーザは複雑そうな視線をオットーに向けていた。どうやら、前にオットーに言いすぎたことを引きずっているようだ。


 一方のオットーはあまり気に病んではいないようだが、もっと早く成長したいという焦りを強くしてしまっている。これはこれで放置しておきたくないから、近く、話す機会を作るとしよう。


「さて、方針が決まったところで、具体的な話をしよう。この方針を実現するために、よりわかりやすい行動に落とし込みたい。今からそこについて話し合おうと思う。不正解はないから、気楽に意見を出してくれ」


 そう言って馬車の中を見渡すと、ルイーザ以外のメンバーの表情が固いことに気がついた。なるほど、ゼリュスの街での話し合いの時といい、ここに一つ問題があるようだ。


「そんなに固くならないでくれ。とはいえ、ルールは一応設けよう。話し合いの時は、次の四つのワードは禁止だ。

 

 1、そんなことも知らないのか

 2、そんなこともできないのか

 3、なぜそんなことを言うんだ

 4、それは絶対間違っている


 ここにいるメンバーは経歴も違えば年齢も違う。知識や経験、意識の違いがあって当然だ。だからこそこうした話し合いの場を設け、すり合わせをしておく必要があるんだが、その時、先の4つは自由な発想、発言を阻害する。この点だけは気をつけるようにしてくれ」


「……ぅ……」


 見ると、ルイーザがバツの悪そうな顔をしている。先の話し合いを見るに、耳が痛いのだろう。全員に言ったつもりだったが、ほとんど名指しのような印象を与えてしまったようだ。反省しなくては……。


 他のメンバーもそれが伝わってしまったようだ。唯一、馬車の運転をしているアントンだけは別のようだが、少し気まずい空気で馬車の中が静かになった。


 車輪がガタガタと回る音とカウルスが地面を踏みしめる音だけがその場を支配した。


「……わ、わかりました! じゃあお話を進めましょうか!」


「そうですね! 早くしないと目的地についちゃいますしね!」


 ハンナが助け船を出し、それにオットーが乗っかってくれた。ありがたい気遣いだ。


「二人ともありがとう。詳しい話はルイーザから話してもらう。ルイーザ、頼む」


「はい。今後の《アードラー》の活動を、一つか二つの街に絞ろうと思っています。もちろん、別の案があれば言って欲しいです」


「え……ただでさえ仕事が少ないのに、そんなことして大丈夫なんですか?」


 声を上げたのはオットーだったが、他のメンバーも同じ疑問を持っているようだ。ハンナは可愛らしく両手で口を覆っている。イエルクは腕を組み、考え込むように唸ったままだ。


「オットーが疑問を感じるのは最もだ。イエルク、君も何か言いたそうだな?」


「…………今でさえ、仕事を求めてあちこちを旅しているのに、なんとか食っていけるくらいの利益しか出せていない」


 話を振ると、イエルクが苦々しそうに口を開き、間髪入れずにハンナが続いた。はいはい 、と手を挙げながら抗議している。


「そうですよ! 大店の傭兵団にほとんど仕事を取られちゃってるから、あちこち回って仕事を探して。すっごく頑張ってるのにおかずが一品しか、一品しかない生活を送ってるんですよ! それなのにそんなことしたら、おかずがなくなっちゃいますよ〜!!」


 言い切ったハンナははぁはぁと息を荒げている。その様子に隣に座ったイエルクも少し驚いているようだ。


 そして、カウルスの手綱を弾きながら「おかずが減るのは、嫌だなぁ」と小さく呟くアントン。言葉足らずだったな、ルイーザ。


「な、なんなんですか! せっかく私とクラークさんが一生懸命ーー」


 メンバーの反発に、声を荒げるルイーザに「落ち着け」とジェスチャーで伝える。それを見て事前に話し合った内容を思い出したのか、胸に手を当てて小さく深呼吸をしている。


「……たしかに、不安に思うのも当然です。で、でも、これには理由があるんです」


 一瞬、こちらを一瞥したルイーザ、今までとは違うやり方で進めるのが不安なんだろう、縋るような視線だ。だがまぁ、助け船を出すにはまだ早いな。あえて目をそらす。


「……《アードラー》は、街から街を移動しながら仕事を探しています。ですが、そのせいで移動コストもかかっていますし、仕事の評判も広がっていません」


「それはそうですけど、だからこそ、もっと頑張って評判を集めようとしてるんじゃないですか」


 今日はオットーがいつになく饒舌だ。しかも言葉にトゲがなく、会議をスムーズに進めてくれている。たまに、意見を否定されると自分自身を否定されたような気分になる人がいるが、オットーはその真逆、きちんと議論ができる素質を持っているのかもしれない。


「私も、そうしていくべきだと思っていましたが、違いました。だって、三つの街で一つずつ仕事をするよりも、一つの街で三つの仕事をした方が評判は上がりやすい、集まりやすいはずです。もしくは、賞金稼ぎや、魔物狩り、失せ物探し。どれかに特化したほうが人々も我々を覚えてくれます」


 オットーが作ってくれた空気のおかげで、ルイーザも落ち着いて話せている。


「……たしかにその通りです。だけど、そもそも僕たちは仕事がないから街を移動していたはずです。その街での仕事がなくなったら、どうするんですか?」


 オットーからのツッコミに、ルイーザが言葉に詰まっている。そろそろかな。


「その時は、受ける仕事の幅を広げる。なに、探せば仕事なんていくらでもあるしな。大店じゃ取らないような小さな仕事を受けるつもりだ。最近の大店は、魔物の増大の煽りを受けた富裕層の大口顧客の予約優先で動いているから、取りこぼしている仕事もかなりあるはずだ」


 俺が話し始めると、ルイーザは露骨にホッとした顔を見せた。よく頑張ったさ、選手交代だ。


「そうして一つの場所にとどまりつつ、各々の実力向上のための鍛錬も並行して行う。仕事内容で絞るのもありはありだが、まずは実力をつけるところからだろう」


 オットーとアントン、そしてハンナがそれぞれ眉をひそめる。先日の一件で改めて露呈した自分の弱さを噛み締めているようだ。俺の見たところ、実力不足というよりは、ただのアガリすぎに見るのだが。


「ちなみに、活動拠点はどこにするんですか?」


「いくつか候補はあるが、俺の中では……ムワンダ・ムゥチがいいんじゃないかと思っている」


 ムワンダ・ムゥチ、その街の名を聞いた瞬間、全員の顔色が変わった。無口なイエルクでさえ驚きの表情を見せている。これはルイーザにもまだ話していなかったからな、彼女も絶句しているようだ。


「ムゥチって、あの《湖と灯の街》ですか?! 観光客に大人気の、幻想の都ですよね!?」


 ハンナが頬を赤くして尋ねる。二つに分けた髪の毛がフルフルと揺れている。


「その通りだ」


「で、でもあそこって、何ヶ月か前に魔物の襲撃を受けて、今は……その……」


 オットーの言葉を受けて、興奮気味だったハンナもシュンとなってしまった。


 ムゥチは湖の中の大樹マツマイリと、マングローブのような森林の上に建てられた街だ。とにかく景観が素晴らしく、観光客向けの酒場がいくつもある、別名《酒と灯の街》とも呼ばれている。


 だが、オットーが指摘した通り、数ヶ月前の大規模な魔物の襲撃のせいで、街は半壊。その頃ちょうど設備投資に資金をつぎ込んでいたせいで、街の復興はあまり進んでいない状況だ。


「今、街はまさに危機を迎えている。人の役に立つ人、組織を目指す我々にとって、これ以上うってつけの街はない」


「で、ですが! そんな状況では、我々へのその、報酬も……」


「ふふん、そこについては心配しなくていい。断言する。君たち全員の想像をはるかに超えるものが手に入るぞ。ピンチはチャンス、弱みは強みだ」


「……クラークさんの言いたいこと、少しわかった気がしますよ。たしかに、これはチャンスです」


 オットーは気が付いたようだ。顎に手を当て、いたずらっぽい笑みでこちらを見ている。


 その後も各メンバーからの質問に答えつつ、議論を重ねた。なかなかルイーザが首を縦に振らなかったが、結局はとりあえずムワンダ・ムゥチに向かい、現地の様子を見ることになった。

初めて感想をいただきました。ありがとうございます。

スクショを撮って、時々ニヤニヤと眺めております。

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