CASE6:ルイーザ/トップは孤独
思いの外時間がかかってしまったが、あとはルイーザの面談を残すのみだ。他のメンバーの面談での内容を一旦まとめておこう
▼オットー
・元農夫、8人兄弟の長男
・目標はルイーザと肩を並べて戦うこと
・モチベーションは高め
・努力はしているが、手応えがないことへの不安がある
・コミュ力、思考力は平均的、リーダーシップがやや突出している
▼アントン
・元冒険者、そこでは副リーダーを務めていた
・いずれは有名になりたいらしい
・モチベーションは低め
・実力を発揮できず、日に日に自信を失っている
・冒険者時代の経験のおかげで、膂力自体はチームで一番だ
・リーダー適性が高く、コミュ力も◎、思考力は低めだ
▼ハンナ
・田舎町の出身、王都に出稼ぎに来たものの、なかなか仕事が見つからず、たまたま目に付いた《アードラー》に入団
・モチベーションは並、もう少し稼ぎは増やしたいと言っていた
・弓の腕は悪くないが、経験が足りず、いざという時にミスをしてしまうようだ
・コミュ力と思考力が高く、リーダーシップはかなり低めのようだ
▼イエルク
・経歴は話してくれなかった
・なにやら事情があり、大金が必要らしい
・弓の腕はかなりのもので、経験も豊富
・しかし、大手には入団を断られたらしい
・理由話してくれなかったが、どうやらコミュ力が課題になってしまったようだ
・思考力はずば抜けているが、周囲と関係を築くコミュ力と、引っ張っていくためのリーダー適正に大きく欠けている
メンバーの質は決して悪くないが、正直、明日誰が辞めてもおかしくない状況だ。早急に手を打つ必要があるだろう。
「ルイーザ、来てくれ」
「はい」
焚き火の前に座っていたルイーザを呼び出した。彼女の立場と、これから話す内容を考えれば、他のメンバーとは離れたところで話すべきだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
キャンプ地から少し歩いたところに、岩間を流れる清流がある。苔に覆われた岩岩はどれも身の丈ほどはあるだろうか、昔、ここを根城にしていた龍はこれを枕にし、大きな寝息をあたりに響かせていたらしい。
岩間に流れ込んだ風が奏でるヒュルヒュルという独特な音が、周囲のもの寂しげな雰囲気を引き立てている。
川のほとり、開けた場所で手頃な岩に腰掛けた。ルイーザの表情は今日も固く、体の前で組んだ腕につけた手甲同士がカチャカチャと音を立てている。
「さて、それじゃあ始めよう」
「はい。よろしくお願いします」
浅黒い肌に揺れる木の葉の影が重なって、細かい表情は見えないが、時折、澄んだ黒色の瞳に木漏れ日がキラリと反射している。
大まかな経歴は前日に聞いた通りだった。騎士団に入り、閉塞感を感じて脱退、その後を立ち上げたと言う流れだ。騎士団では小隊長まで上り詰めたらしいが、就任して程なく辞めたことで、部下を持つことにはあまり慣れていないとのことだ。
今回はもう少し詳しいところまで深掘りしていこう。
「そもそも、どうして騎士団に入ろうと思ったんだ?」
「…………払いがいいから、ですよ。それだけです」
一瞬、こちらに視線を送ったあと、顔ごと逸らして短く答えたルイーザは、組んだ腕を組み直している。
「……そうか、わかった。ルイーザ、《アードラー》はこれからどこを目指すんだ?」
「どこを……?」
「どんな、でもいい。具体的じゃなくてもいい。新しく君が立ち上げたんだ、何か実現したいビジョンや何かがあるんじゃないかと思ってね」
「……別に、そんな大したものは……」
「ルイーザ、別に正解があるわけじゃないんだ。良い悪いもない。もしよかったら教えてくれないか?」
話す俺を横目でこちらを見ていたルイーザは、考え込むように黙ってしまった。褐色の肌、形のいい顎を指でなぞっている。
やがて、視線をこちらに向けないまま彼女は少し照れ臭そうに、そしてそれを悟られないようにしながら話し始めた。
「ま、まぁ強いて言うなら……人の役に立つ、それを大切にできる人に、組織にしたいと思って、います」
「そうか、いいじゃないか。君らしい」
「……強いて言うなら、ですよ。そんな大義を持って生きてる人なんていませんよ」
目を細め、視線を落とすルイーザ。この手の話で何か嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。
「そうかもしれない。だが、これがあるのとないのとでは大きな差が出てくる。ちなみに、ルイーザ。俺も君と同じさ、俺のやったことが誰かの役に立って、その人の人生が良くなる。それが嬉しくてたまらないんだ」
「……ふぅん、クラークさんは変わってますね」
ザァッと風が吹き、彼女の灰色の前髪と木々が揺れ、木漏れ日が瞳を煌めかせた。一瞬見えた彼女の表情は、いつもと違った印象を受ける。
「ふっ、それは否定しないがな。話が逸れた、要は自分の仕事に意義を感じることは大切ってことだ。だから、他のメンバーにもそれを共有することから始めようと思っている」
「『から』ということは、他にも考えているんですか?」
「もちろんだ。大きく分けて三つの策を打とうと思う
1、仕事の意義と、それに即した目標を設定する
2、コミュニケーションの量を増やし、質を上げる
3、相手の仕事の進捗、成長をサポートする
これを完遂できれば、ルイーザ、君の目指す場所へ大きく近づくことができる」
「……あの、私たちがここまでやらないといけないんですか? 正直、メンバー各々の問題だと思うんですが……全体的に鍛錬不足ですし、意識も低いように見えます」
「ルイーザ、君の気持ちはわかる。確かに俺たちがなにもせずとも、メンバー全員が高い意識を持って、正しく努力をしてくれるなら、それに越したことはないだろう。組織の長として日々苦悩している身からすれば、彼らの動きは物足りなく感じることも多いだろうな」
「…………私なりに考えているつもりです。でも、他の子達にはわかってもらえていない気がして……」
「そうだな、トップとは孤独なものだ。部下達にはその気持ちはわかってもらえないことが多い。だがな、ルイーザ、君だって彼らのことをわかっていないぜ」
眉をひそめ、顎を引いてこちらを睨むルイーザ。
「……わかっていない?」
「ああ、そうだ。立場は違うが、彼らだって君と同じだよ。状況をよくするためにもがいている。努力している。足掻いているよ。そして、本当にこの方法が正しいのかどうか、いつも悩んでいる」
「……っ」
「まずはそれを認めてやれ、わかってやれ。いいかルイーザ、まず相手を理解しろ、理解しようとするんだ。こちらからな」
「でも! そんなことしても相手がわかってくれるかどうかなんてわかりませんよね。もしわかってくれなかったら、無駄になるんじゃないですか」
「その通りだ。無駄になるかもな。それでもやるんだ。そうしないと、先に進むことなんてできない」
ルイーザは顔を歪めている。歯を食いしばり、体はこわばり、拳を握りしめている。きっと、ずっと頑張ってきたからこそ、それが報われない辛さに怯えているんだ。
「……でも、ルイーザ。君が作ったこの《アードラー》のメンバーなら、そうはならない、断言してもいい。今、このチームはうまく歯車がハマっていないだけだ。全員と話してそれがわかった。みんな良い奴ばかりだ。それは君にもわかっているんだろう?」
「……それはっ…………はい。みんな、良い子達ばかりです。それは、ずっとわかっています。彼らが結果を出せないのは、きっと……」
自分の体を抱きしめ、絞り出すように話すルイーザ。良い人たちに囲まれているからこそ、それに応えられない自分が辛いのかもしれないな。
「……うむ、それがわかっていれば十分だ。ルイーザ、必ずこのチームを俺が引っ張り上げる。約束するよ。だから改めて、俺に手を貸してくれ!」
ルイーザに手を差し出す。しばしその手と俺の顔を交互に見ていたルイーザは、やがて観念したように手を握って応えた。
「……わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
ルイーザの手を握り返し、キャンプへと戻ることにした。
さて、これで全員の面談が終了した。彼女が協力してくれるなら、仕事の4分の1くらいは終わったようなものだ。
だがここからの道のりも甘くない。気を引き締め、取り掛かるとしよう。




