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CASE2:カーラ/いじっぱり2代目

 俺が地球にいて、まだ知識も経験もなかった頃、いつも俺は人の都合に振り回されていた。今、冷静に考えればおかしいことでも、なんでも飲み込まされていた。


それに気付いた時から、俺はとにかくがむしゃらに知識を取り入れるようになっていき、いつからか、そんな思いをすることもなくなっていったーー。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 あれから果物屋は繁盛しているらしい。両親も復帰して家族3人睦まじく営業をしていると風の噂で聞いた。何よりだ。


 ただ、お店の名前が『クラークの果物屋』になったのはいただけない。商標権とかないのかなぁ。というかそもそも俺のじゃないぜ!


 というわけで今日は村の北側にある鍛冶屋に美人がいると聞いてやってきた。白いレンガでできたあの建物がそうのようだ。さて、初めが肝心だ。いざ。


「最強無双勇者・クラークだ! お邪魔します!!」


「うわっ! ……なんだ、領主さんか。普通に入ってきなよ」


 入ってきた俺を見つめる青い瞳、燻んだ赤い髪の毛をお団子にした美女・カーラ。先代の主人に身1つで弟子入りしたという強者だ。取り扱っている商材はもちろん武器と防具、らしいのだが。


「景気はどうだい?」


「全然だね、すこ前から、なぜか魔物は増えてきてるっていうのに。客足は増えないどころか減ってるよ」


お手上げ、といった具合に右手を振るカーラ、なんだか投げやりな様子だ。


「魔物が? 前回の暗い季節で生まれた魔物はあらかた討伐されたはず。それに、このあたりに《エウシ》が来たことはなかったと聞いていたけどな」


「さぁね、私に聞かれてもわかんない。とにかく、街の北に歩いていったあたりでよく見かけるようになったらしいよ」


気になる話だ。暗い季節で狩り損ねた魔物が洞窟に潜んでいて、冒険者が襲われた、という話は時々耳にする。しかし、ほとんどが《エウシ》の直接の被害を受けた地域での話で、このあたりで聞くことは初めてだ。


「……魔物がいるなら、それを狩る冒険者や傭兵たちも増えているはず、それなのに客足が増えない原因は?」


「さぁね。立地が悪いんじゃないの。こんなところに来る旅人なんてほとんどいないしさ」


 その通りだ。現にここに来るまで誰ともすれ違わなかった。でもそれだけじゃない。


「それは確かに切実な問題だな、だが、それ以外にも問題があると見た!」


 それまで興味のなさそうな態度をしていたカーラが片眉を上げる、少し食いつく。


「な、なんだよ『問題』って……」


「知りたいか、知りたいだろう! ならば方法は一つ、俺の嫁になれ!!」


「……は?」


 さて、第2試合の始まりだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 我を取り戻したカーラに、ばーか、と一蹴された。でも俺は見逃さない。日焼けした肌に刺したわずかな朱色をな。めげずに話を続ける。


「見たところ、やはりものは良いようだな。この剣も槍も、素晴らしい出来だ。だが、どれも埃をかぶっている。なぜだ?」


「……先代が生きている頃に作ったんだよその辺は」


 先代は昨年亡くなったらしい。まだ若かったのに、残念だ。


「なるほど、じゃあカーラが作ったものはどこに?」


「……反対の壁にかかってるやつ」


 見ると、反対側の壁にはナイフやダガー、手甲などが飾ってある。しかし、なぜか目立たないようなレイアウトにされている。これでは、店に来ても気付かない人が出てくるんじゃないか。……少しだけ問題の片鱗が見えてきた気がする。


「だいたいわかった。カーラ、俺がこの店を……」


「しつこいよ。いらないって」


 けんもほろろといったところだ。目をつぶりながら手でしっし、とやっている。目を瞑ると長くて艶のある睫毛がなおさら目立つ。つっけんどんな態度だが、腕を組むと肩の細さと頼りない鎖骨が強調されて、なんともいじらしい。


 こんな美女を諦められるか? いや、ノーだ。さぁて、ここからが本番だ。見せてやる、俺の本気をな。


「カーラ、これを知っているか」


「ん? ……なんで地面に頭をつけてるの……」


 わからないだろう。これは俺の国で最もヤバいミスをやった時の必殺技にして、俺の前世においての最強の相棒「土下座」だ。すうぅ、と息を腹いっぱいに吸い込み。


「お願いします!! お願いします!! お願いします!! 二週間、いや、一週間でいいんです! 俺の指揮下で働いてください!!」


「は、はぁあ? 嫌だって言ったじゃん! 帰ってよ!」


 カーラが取り乱す。よし、こちらのペースだ。ドン引きしているが構うものか。俺には失うものはない、あんまりな。


「お願いします!! お試し、お試しだと思って!! ひとつ、なにとぞ!」


「なんだよお試しって!」


「必ず結果を出します! もしダメなら全財産を差し上げますから、どうか! どうかぁ」


「な、なんでそんな必死なの……怖いんだけど……もうっ、わかったよ。一週間で売上が上がらなかったらホントに全部貰うからね。あーあ、楽な暮らしができそうでよかったー」


 投げやりにそう言いながらカーラは店の奥に引っ込んで行った。ふふふ、カーラめ。没落貴族の全財産ごときで楽ができると思うなんて、まったく甘ちゃんだぜ!


 さて、明日に向けてまずは店内の調査だ。市場調査は今回は一日でいいかもしれないな。

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