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CASE6:ルイーザ/暗い季節の終わりから

 しばしルイーザは考えを巡らせていたようだが、ちらりと団員達の方と俺の顔を交互に見た。そして絞り出すように、


「……色々と聞きたいことはありますが、まず大人気な傭兵団なんて、それをどうやって判断するおつもりですか」


 と尋ねてきた。一笑に付さないところを見ると、よほど追い詰められているようだな。


「無論、君たち自分で判断すればいい。客観的な指標は不要だ」


「……それでは、もしーー」


「そう、君の考えている通りだ。後から文句を言うつもりもない、まぁ、2週間俺の話を聞くだけで今回のことが帳消しになるなら、それだけで安いはずだ。まぁ頼むよ」


 ルイーザの言葉を遮り、改めて条件を提示する。ルイーザは形のいい顎に手を当て、考えるようなそぶりを見せている。他のはメンバー行く末を見守っている。唯一、ふわふわとした女の子だけが、先程から何か言おうとしてはやめ、してはやめを繰り返しているようだ。


「……君、何か言いたいことがあるんじゃないか?」


「あ……えっと、あの……私……」


 その子に意見を求めると、見るからに挙動不審な様子でうろたえ始めた。時折、チラチラとルイーザの方に視線を送っている。


 それを見かねたルイーザに「ハンナ、話して」と促され、ようやくこちらに向き直って話し始めた。


「私は……お願い、したいです。あっ! ルイーザさんがハーレムにっていうのは絶対反対ですけど! 試してみるだけタダなら、その、いいんじゃないかなーって」


 ハンナと呼ばれた少女は、時々言葉に詰まりながらも懸命に訴えた。胸まで伸ばした橙色のふわふわとした髪を、両手でせわしなく撫で付けている。自分の意見を言うことによほど慣れていないと見えるな。


 その言葉を受け、「まぁ、タダなら」「やってみても……いいんじゃないか」と口々に意見がで始めた。概ね前向きな意見が多いものの、ルイーザの表情だけは硬いままだ。が、やがて悩み疲れたのか、唇の端を歪めながら、「みんながそう言うなら、わかりました。試してみましょう」と了承してくれた。


 それを見て「おお!」と小さく声を上げる団員の面々、本当に進退窮まっているのだろうな。



◇◆◇◆◇◆◇



 気づけば夜も深まっていた。とりあえず詳しいことは明日話すとして、今日は休むことにした。寝床をどうしようか悩んでいると、ハンナが毛皮でできた予備の寝袋を貸してくれた。良い子だ。


 男は焚き火のそば、女は荷馬車の荷台で寝るらしい。早々に寝床に入っていった女性陣を尻目に、自分の寝床を整えていると、後ろから声をかけられた。


「クラークさん。あの、すみません。さっき殴ったの、自分なんです」


 チームで一番大柄な男・アントンがまた謝罪してきた。やれやれ、このチームはどいつもこいつも、ブラック企業の大卒新入社員か。他の男2人も、寝袋の上に座り込んでこちらの様子を伺っている。


「えっと、アントンだよな? そのことはもういい、気にするな。念のためにもう一度、気にするな。それと、敬語も使わなくていいぞ。多分、俺たち年も近いだろう?」


「……ああ、わかったよ。ありがとうクラーク」


 アントンは元冒険者だそうだ。膂力はあり、斧を使った闘いには自信があるらしい。しかし、チームプレイが苦手で、仲間に怪我をさせてしまったことでチームを追い出されたそうだ。そこで手に職をつけるためにこの《アードラー》に入ったという経歴だった。


 農家や商人を選ばなかったのは、ツテがないこと以上に、やはり冒険や戦いへの憧れが捨てきれなかった、と照れ臭そうに語っていた。なかなか人間臭くて、個人的には好きなタイプだな。


「なぁ、アントン。こう言うのもなんだが、どうして他の傭兵団に入ろうとしなかったんだ? その体躯があれば、少なくとも『入るのには』苦労しないんじゃないか?」


「『入るのには』ってなんだよ。ま、色々あるんだよ。そのうちな」と笑って誤魔化された。こいつとは仲良くなれそうだ。アントンは、むしろ、と前置きして、


「クラーク、お前こそ、どうしてあんなに突飛なことを言い出したんだ? しかも、クラークにとっちゃ一方的に不利な条件に思えるけどな」


 と続けた。心底不思議そうな顔をしている。


「決まってるだろ、ルイーザをハーレムに入れたいから、それだけさ」


 アントンはそれを聞いて楽しそうにケラケラ笑っている。はじめの印象より、かなり陽気な性格のようだ。


「それ、ハーレムって言葉自体久々に聞いたぞ、本気かよ。それにしても、ルイーザ団長かぁ……美人だとは思うがね」


 腕を組み、眉を寄せながらアントンはうーん、と唸っている。これは、面白い言葉が出てくる雰囲気だ。口を挟みたいのを耐えて次の言葉を待つ。


「……俺は、もっとおおらかな娘の方が好きだなぁ」


「なるほど、つまりアントンはハンナ派か」


「そういうことだ。クラーク、お前は少数派だぞ、きっと」


「いやいやいや、そんなことないって。ルイーザがさっき俺のこと睨んでた時、すげえかわいかったろ?」


 目をぎゅっと閉じ、口元を歪め、その巨体に似合わない小声で「えー、ただただ怖いぜ」というアントン。


「ふっ、まだまだだなアントン。あんな冷静そうな女性の激情が見られるなんてラッキーだ。大枠で考えれば、普段見せない姿を見せてくれた、ということだろ」


「抽象の階段を一息に駆け上がっていったな。なんかちょっと可愛く思えて……いや来ねぇな、まだ俺には早いかもしれない」


 納得したような澄ました顔を、一瞬でおどけた笑顔に崩すアントン。笑い合った後、周りを見ると、もう男2人は寝ているようだった。


そろそろ休むとしよう。アントンに挨拶をして、寝袋に潜り込んだ。寝袋の中はヒンヤリしている。夏とはいえ、今日のように風が出ている夜は少し冷えるな。


 見上げると、地球とは違う星空が広がっている。詳しくないから、よくはわからないが、こっちの世界に生まれてしばらくは慣れずに違和感を感じていたことを思い出す。今では、前の世界とこっちの世界で過ごした時間はもう同じくらいになった。この夜空にも愛着が湧いてきた。


 そんなことを考えているうち、いつの間にか眠ってしまっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 次の日、今はアントンが引く馬車に乗って街まで移動する道中だ。その時間を使ってミーティングを開始する。ちなみに、馬車とは言っても、動力の動物は馬ではなく、カウルスと呼ばれる生き物だ。


 カウルスは灰色の体毛に覆われた牛のような見た目で、顎の下に、尖った牙を持つもう一つの口を持っている。消化器官が強く、肉でも野菜でも、果てはゴミでもなんでも食べられ、馬力もある便利な生き物だ。


「さて、まずは現状の把握だ。《アードラー》として目指す目標と、各々の得意なことを確認していこうか、じゃあまずはルイーザ、君からーー」


 そこまで言いかけたところで、馬車が急停止する。全員が慣性でバランスを崩す中、いち早くルイーザだけが体勢を立て直し、馬車を引くアントンに声をかけた。


「アントン! どうした!」


「だ、団長、今目の前を魔物が横切りました。おそらく、先日農家を襲った個体だと……思います」


 アントンは緊張した様子でそう答えた。それを聞いたルイーザは顔を険しくさせ、荷馬車の縁に手をかけて逆上がりの要領で天井に登った。大した身体能力だ。


「見つけた! 追いかけるぞ!」


 その声の直後、馬車が大きく揺れた。ルイーザが跳躍し、走り出したのだ。急いで装備を整え、あとを追いかけた。


 魔物、《エウシ》が去った後の暗い季節に生まれる異形の怪物。強さは個体差に大きく左右されるが、どんなに小さな個体でも、討伐には兵士が3人は必要となる。流石に5人いれば、大丈夫だとは思うが。


 走りながらメンバーの顔を見て驚く。アントンを含め、全員が血の気の引いた顔をしている。いくらなんでも、傭兵集団でこのリアクションはないだろ。不安が膨らむが、ルイーザを1人で行かせるわけにはいかない。とにかく、先を急いだ。

昨日、評価ポイント入れてくださった方、ありがとうございます。あなたで7人目です。


ぜひこのことを覚えておいてください。そして何かの折に「お前の作品を7番目に評価したのは、私だ」と言っていただければ、平伏しますので、よろしくお願いします。

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