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CASE4:オーレリア/わかってほしい

 二日後の朝、今日も弁当を売りに来た。昨日カーラたちと買った服を着ているオーレリア。なるほど、やはり彼女たちに任せて正解だったようだ。


 今来ているのは仕事用の動きやすくて落ち着いた服だが、ところどころに華やかなデザインが施されている。整えられた内巻きの金髪も相まって、人目をひく雰囲気を醸し出している。相変わらずオーレリアの表情は変わらないが、機嫌が良さそうだ。


 その甲斐あって今日は弁当のはけもいい。うむ、やはり店員もお客様にとってのインターフェース、店の外装内装・料理の見た目と同じ。しっかり拘らなくては。


 意外な点として、男性客より女性客の方が若干多い。そしておとといのカーラたちもそうだったが、女性たちはみんなオーレリアをペタペタと触りたがる。オーレリアを見ると、内になにかが沸き立つのかもしれない。


 こうなると、いずれランチメニューに女性客向けのものも用意した方がいいかもしれないな。いや、それよりむしろ……。


「ありがとうございました」


 そうこうやっているうちに弁当は完売した。かなり時間は余ったが、一旦店に戻るとしよう。ちょうど話しておきたいこともあるしな。


「よし、オーレリア。帰って休憩しよう」


「……はい」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 オーレリアの淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。ランチまではまだ時間がある。


「オーレリア、話がある」


「……なんですか?」


「今日から、深夜まで営業することにする」


「……わかりました。早速仕込みを始めます」


 顔色ひとつ変えない。真剣な顔だ。普通は勤務時間が伸びると言われたら嫌がるもんだけどな。


「待て待て、営業はするが、店を回すのは君じゃなくて別の人だ」


「え……?」


「入ってくれ!」


 戸惑うオーレリアを尻目に、玄関の外にいる人物に声をかける。引き戸がガラガラと開いた。


「……どなたです、か?」


 入ってきたのは50代くらいの恰幅のいい女性だ。彼女はオーレリアとの面識はない。


「彼女はエイダ。今日から夜の時間、店は彼女に『使ってもらう』。よろしくな、エイダ」


「よろしく領主様、オーレリアさん」


 目尻の深いシワが人の良さを表しているようで、握手を交わした手は暖かかった。なんだかホッとする人だ。


「クラーク様、『使ってもらう』とは?」


「うむ、つまり貸し出すということだ。この店の設備を使って営業をしてもいい代わりに、売り上げのいくらかをこっちに払ってもらう」


 本当なら定額にしたかったのだが、まとまった金額をいきなり用意できるほどの余裕がある人が見つからなかった。まぁその分ハードルは下がり、参入してくれやすくなるというメリットはあるが。


「夜の食材の準備も全てエイダにやってもらう。オーレリアは何もしなくていい。だが夜の仕込みの都合上、昼以降のミーティングスペースの時間は、2人で並行して厨房で作業することになる」


「…………」


 オーレリアから返事がない。表情も、わずかに暗い気がする。


「オーレリア? どうかしたか?」


 突然、彼女は立ち上がって店の外に出て行ってしまった。しまった、先に相談しておくべきだった。報連相が苦手なのは前の世界から変わっていない。


「エイダ! すまないがここで待っていてくれ!」


 心配そうな顔をしているエイダにそう告げ、後を追いかける。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 結局、町外れの川にかかる橋でやっと追いついた。オーレリア、めちゃくちゃ走るの早い。鍛えているつもりだったが、追いつく頃には汗だくになっていた。


「オッ……オーレリア……あのな、聞いてくれ……」


「……すみません。突然飛び出したりして、もう大丈夫です。戻りましょう」


 オーレリアは息一つ乱れていない。これが若さか。いや、そんなことより。


「すまない、勝手に話を進めてしまって」


「……別に、大丈夫ですよ」


 無感情にそう答えるオーレリア。


「よく考えれば、自分が大切にしていた店を見ず知らずの相手に貸すなんて嫌に決まっている。まして、自分の与り知らないところで話が進んでいたならなおさらだ」


「でも、それでお店が守れるなら……」


「オーレリア、俺が悪かった。だから、本音を話してほしい。ちゃんと聞くから」


 そう言うと、オーレリアは俯いてしまった。無言の時間が過ぎていく。


「…………クラーク様はわるくないです。これは、ただの私のワガママです……から」


 オーレリアはようやく、ポツリ、ポツリと話し始めた。


「…………三ヶ月前まで私を飼っていた人、悪いことしてたみたいで、ある日家にたくさんの軍人が押しかけてきたんです」


 奴隷とはいえ、こんなに跡が残るくらいの扱いをするやつだ。無理もない。


「その時に屋敷の奴隷みんなで逃げ出して……途中ではぐれたり、魔物にやられたりして……この街までたどり着く頃には、私1人になっていました」


 かける言葉もない。予想以上にハードな経験をしてきたんだな。


「その時に、定食屋のおばあちゃんに拾ってもらって……その時食べたご飯がすごく美味しくて…………おばあちゃん、すごく貧乏なのに、ずっとご飯、食べさせてくれた」


「今、その人は?」


 思わず聞いてしまった。


「…………ある朝、出かけて行ったっきり、帰ってこなくなりました。周りの人に聞いてもみんな、わからないって。…………だから私、いつかおばあちゃんが帰ってきた時までお店を守らなきゃって」


 そういう経緯だったのか。改めて、無神経なことをしてしまったな。


「私、全然ダメでしたけど、それでもお店を守りたかったんです。……だから、さっきの話を聞いて、胸の中がモヤモヤして……でもなんて言えばいいかわからなくて……クラーク様、ごめんなさい」


 申し訳なさそうな様子のオーレリア。自分の気持ちをはっきり言葉にすることは、大人でも難しい。


「いや、謝るのは俺の方だ。無神経なことをしてしまったな。なんとか、オーレリアの負担を減らしたかったんだが、相談もせずに勝手に進めてしまった。さっきの話は無しにしよう」


「いえ、せっかく来てくれましたし、私ももう大丈夫です。お店に戻りましょう。そろそろお昼の時間です」


 いつもの様子に戻った。だがやはり心配だ。


「オーレリア、でも……」


「いいんです。言葉にしたらスッキリしました。ただ、聞いて欲しかったのかもしれないです……クラーク様、ありがとうございます。さっ、戻りましょう」


 そう言って俺の手を引いて歩くオーレリア。もうこれ以上は言うまい。だが、あと一言だけ。


「……オーレリア、話してくれてありがとう」


「…………いえ」


 顔は見えないが、オーレリアが微笑んでいる気がした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 店に戻り、改めてエイダとの話をまとめた。オーレリアももう大丈夫のようだ。まだエイダに対しての態度は硬いが、エイダの方はオーレリアを娘を見るような目で見ている。これならなんとかなりそうだ。


 あとはエイダの売り上げを見ながら、そっちのテコ入れが必要そうなら適宜調整していこう。……ひとまず、『あいつ』に頭を下げた甲斐はあったようだな。


 レッドとの約束まで残り1週間、今のペースで進んだとしても少し厳しい数字だ。まだ策は残っているが、効果がすぐに現れるもの少ない。


 だか、一つだけあった。何度も使える手ではないが、時間はない。試す価値はあるだろう。早速仕込みにとりかかろう。この短い期間で成果が出るかについては、ここでの踏ん張り次第だ。よし、さっそくオーレリアに相談しよう。同じ失敗は繰り返さない。

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